第5話 ホモゲー
歩く道すがら兄妹で他愛もない会話をした。
今日友達の~ちゃんが髪を切っていてそれが可愛かっただの、今日の夕ご飯は何だろうとかそんな感じだ。
普通の兄妹っぽいだろ?
そうしてしばらく歩き、ある時ふと思ったことを俺は口に出した。
「日向。ちょっとスカートが短いんじゃないのか。」
そこらの女子高校生ならばスカートの丈の長さなどさして気にもならないが、自分の妹となると話は変わってくる。
やはり兄貴としては妹には節度を持った服装をしていてほしいもんなんだ。
他の男たちにそういう目で見られるのもなんとなく嫌だしな。
すると日向は最初ムッとした表情を浮かべたがすぐに何か思いついたようで
「これくらい普通だよ~お兄ちゃんどこ見てるの?」
と煽るようにニヤニヤしながら俺の顔を見上げてきた。
日向は身長が小さいのでいつも俺を見上げる形になるのだが、今日は更に角度をつけてのぞき込んでくる。
その様子は一目で調子に乗っているであろうことが伺えた。
別に妹にからかわれた所で特に思うことは無いが、このまま調子に乗られるのも何か癪だよな。
少しばかりお灸を据えてやるか…
「お前の水玉のパンツにさっきからくぎ付けだ。さっきからみんなずっと見てるぞ。」
「にゃっ!? え!ほんとに!?なんでさっさと言わないのお兄ちゃんのバカあ!!」
日向はその場にしゃがみ込んでバッとスカートを抑えた。
よっぽど恥ずかしいのか少し丸みを帯びた顔をトマトのように真っ赤に顔を染め上げ俺の事を鋭く睨みつけてくる。
しかしその瞳はウルウルと涙をため込んでいて今にも泣きだしそうだった。
そんなに恥ずかしいなら最初っから俺を煽るなよ…
と思ったが口に出すとまた面倒なことになりそうなのでそれは思うだけにしておき、さっさとネタバラシすることにした。
「嘘だぞ日向。最初からパンツなんて見えてないしお前の今日のパンツは黒だろう。」
すると日向は予想外の俺の言葉に絶句し、その後すぐに立ち上がり俺を糾弾し始める。
「う、うそ?―――――――って!変態変態ヘンタイ!!っていうかなんで見えてないのにパンツの色が分かってるの!?おにいちゃんの変態!!ママに言いつけるよ!?」
ハッハッハ、何を言う妹よ。
兄貴ってのは普通妹のパンツのローテーションくらい正確に把握してるもんだろ。
実際に妹のいるやつなら分かってくれると思う。
え?普通は分からないって?
そんな奴が本当にいるんだとしたらお兄ちゃんの風上にも置けんな。
すまんが出直してくれ。
ちなみに日向の明日のパンツは水玉パンツだよ!
ちなみに明後日は・・・
と、兄弟の他愛もないやり取りをしていると周囲がなんだかざわついてきたようだ。
道の通りでこんなことをしていたもんだから人の視線が少しばかり痛い。
ついでに妹の視線もグサグサ刺さってきていてこっちはもっと痛い。
まあ傍から見たらこんな光景、彼氏が彼女を泣かせている絵にしか見えないもんな…
俺も道端で女の子を泣かせるような最低な男だと思われるのは本意ではない。
はあ…さっさと妹様をなだめて目的地に向かうことにするか…
「可愛い妹の事くらい何でも知ってるもんなんだよ兄貴ってのは。愛情表現の一種なんだ許してくれ。」
「なっっ…可愛い…愛情……?/////」
日向はボンッと顔から蒸気が出そうなほど顔を火照らせてると、先ほどまでとはうって変わって人差し指を胸の前で突き合わせ、俯く。
その表情までは伺い知ることは出来ないが、この人差し指を突き合わせる仕草は昔から日向が嬉しい時によくしている仕草だ。
どうやらなんとか正解を引けたようだな…
もちろん家族として妹の事を大切に思うのは兄貴として当たり前のことだ。
さっきの言葉に嘘偽りは無い。
良かった、これで変態兄貴の烙印は押されずに済みそうだな。
よし、もう一押しだ。
「お兄ちゃんって私の事…す、好き…なの?」
日向は上目遣いになって今にも消え入りそうな声で俺に問いかける。
安心してくれ日向。
お前の兄貴は至ってまともなんだ。
そして俺はためらいがちに声をかけてくる妹に対し―――
「日向大丈夫だ。兄貴ってのは妹の体じゃこれっぽっちも興奮しないものなんだ。
それに俺が好きなのは――――ボインでエッチなお姉さん系だ!」
チェックメイト。
指をビシッと一本空に向かって突き立て、俺は高らかに宣言した。
完璧だ。
やれやれ…やっとこれで日向の怒りも収まるだろう。
まったく手のかかる妹様だぜ!とひとりごち、それから日向の方を振り返る。
すると
「あ、あれ?日向さーん?」
なぜかその妹様はプルプルと震えておりその拳はギリギリと強く握りしめられていた。
え?日向さん・・・怒っていらっしゃる?
あ、あれれ~?おっかしいぞ~?
どこかの小さな名探偵になってみたが妹が震えている謎は解けない。
なんで日向怒っているんだろう…
妹に欲情する変態兄貴じゃなくて安心してもらえるはずだったんだが…
心の中であれこれ思案してみるがやはり分からない。
この事件、迷宮入りですね!
するとしばらく震えていた日向は突然ギッ!!っとまるで俺を親の仇を見るような射殺さんばかりの眼光で睨みつけ―――――
「ばかばかばか!!お兄ちゃんのベッドの下の「俺の担任がこんなに巨乳で淫乱なわけがない」シリーズ!ご近所さんにバラ撒いちゃうんだからあ!!!」
それはやめてえ!?
ご近所さんもそうだけど厳格な親父にそれがバレようものなら緊急家族会議の末明日から俺には帰る場所がなくなっちゃう!
と俺に言う暇も与えず、日向は脱兎のごとく駆け出していた。
その背中はみるみる小さくなっていき、ついに見えなくなる。
いやそれにしてもBLマニアの変態に変態扱いされるとか、いやマジで意味わかんないでしょ…
しかも結局なんであいつあんなに怒ってんだよ…
年頃の女の子の考えることは本当に分からん。
言動も表情もコロコロ変わる、女心と秋の空だっけ?
良く分からんけどまあそんな感じなんだろうな。
はあ…このまま帰ったら日向の機嫌治ってたりしないかなあ。しないよなあ。
しょうがない。手ゲイ部?手土産に買って帰って機嫌治してもらうことにするか・・・
俺は嘆息しながらホモゲーショップに向かうことにした。
しばらく歩くといつも日向に連れてこられている店に着く。
店に入り一息ついた後店内を見渡すとあたり一面ホモにまみれで、俺はまるで違う世界に迷い込んでしまったような感覚に陥った。
「やっぱり何度来ても慣れないなこういう店は…」
そうして店内をおそるおそる歩き回り件のホモゲー見つけ手に取る。
「おっ、これだこ―――」
その瞬間俺は言葉を失っていた。
そのホモゲーのパッケージは手芸部員にしては筋骨隆々な男がその男とは打って変わってひ弱そうな男に刺繍糸で亀甲縛りにされていたのだ。
異世界すぎる…
俺は改めて腐女子が背負った業の深さを実感させられた。
馬鹿な妹を持ったもんだ。
確かに俺には理解できない世界ではある。
それでもこんなホモゲーをしながらにやけ悶えている日向の姿を想像すると自然と俺の頬が緩んでしまっていた。
これで日向機嫌治してくれるといいけど。
そして俺はその手ゲイ部を手に持ち、それを購入しようとカウンターに行こうとしたその時―――
パシャッ―――
シャッターが切られたような音がし、周囲を見渡したが周りには日向と同じように業を背負った者たちが作品を物色しているだけでカメラを持ったものなどいなかった。
気のせいか…
そう思い俺はそのまま手ゲイ部を購入し店を後にした。
―――それが俺の高校生活の大きな転機になる事はこの時の俺はまだ知らない。
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