第4話 妹

光と別れ、電車に揺られる事30分。


―――俺はホモゲーを買いに来ていた。


時刻は三時。世間でいうところのおやつ時だがスイーツといったお洒落な物からは縁遠い街、秋葉原。

オタク趣味を持っている奴らにとっては聖地だなんて呼ばれているらしいこの街はあいにくそういった趣味を持ち合わせていない俺にとってはよく分からない感覚だな。


街のいたるところに現在放映中なのであろうアニメのポスターや旗のようなものが並び立っている。

しかしそんな街ではあるものの、周囲を見渡すとスーツのビジネスマンやOLのようないで立ちの人が大半を占めていた。

周りを歩いている人もチェックシャツをジーパンにイン。

変なリュックに頭にはバンダナといった典型的なオタクファッションはもう過去の産物であるらしい。


おっとそういえばホモゲーの話だったな。


別に俺はそういうゲームを好んで楽しむような人種ではないんだ決して。

じゃあなんのためにこんなとこにいるかって?

それは…


「お兄ちゃん!こっちこっちー!」

俺は駅前で待ち合わせした妹に呼ばれてそちらに歩みを進める。


「よう日向。待ったか?」

「んーん!今来たところだよ!」

そう言って柔和な笑みを浮かべているこいつは俺の妹の小湊日向。

母親譲りの子犬のような可愛らしいルックスに制服や髪形も今どきの高校生らしく緩く着崩された制服に派手すぎない茶髪。

まあ身内びいき無しにしても可愛いと言って問題ないであろう。


―――そう、こいつの内に秘める邪悪を除いては。


「そういえばお兄ちゃん、光さんとまた同じクラスだったんだってね」

「おう、残念なことにな。」

「照れなくても良いんだよ?」

は…?何を言ってやがるんだこいつは…


「あいつとは腐れ縁なだけだぞ。あいつの妹の話を毎日聞かされる俺の身にもなってみろってんだ。」

「ほんとお兄ちゃんはツンデレさんだなあ。まあツンデレなお兄ちゃんを優しく攻め立てる光さんの光×陽カプも好きだけど!でもねでもね!日向的にはお兄ちゃんの誘い受けで劣情を抑えきれなくなった光さんが猛り狂ったイチモツをお兄ちゃんのやおいあな目がけて激しくぶっこんで―――!!」

「帰ってこいバカタレ」


このまま放っておくと日向の中の俺がすごく不快なことになりそうだったので日向の頭を軽く小突いてやる。

すると何かにとり憑かれたように異世界へトリップしていた妹が帰ってきたようで

「はっ…あたしは一体…?」


ほんと一旦世界に入ると見境なくなるのは悪い癖だよなあ。

俺だから良いが、他の奴に見られたら周りの奴はなんて思うんだろうな…

なんて昔の俺は考えていた。

だが俺の妹の日向は馬鹿だが間抜けではないらしくそんな心配は杞憂だったらしい。

こいつもこのBL趣味は周りに知られたらいけないという事は分かっていて、普段は周りと同じく女子っぽい振る舞いを心掛けているようだ。


日向は見た目自体は可愛いし、人当たりも良いので男女問わず友達も多い。

だがこのBL趣味だけは共有できる友達がいないので、自然とこういう日には俺が駆り出される羽目になってくる。


「んじゃいくか。」

「うん!早くいこお兄ちゃん!早くしなきゃ「手ゲイ部~先輩の針から垂れる白い糸~」が売り切れちゃう!」


この手ゲイ部シリーズは腐女子界隈では有名なシリーズらしく、ネット販売では販売開始二時間で完売した超人気ゲームらしい。

いやそれにしてもひっでえタイトルだな…

そんな事を思う俺をよそに日向は目的地に向かって歩き出す。

よほど楽しみなのか日向の歩く速度はいつもより早い。


やれやれ、人の事呼びつけておいて勝手に歩き出すなっつーの…


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