第二話 ファーストコンタクト

 私の頭にふわりと乗ったふわふわもこもこは、私を先に促すように揺れていた。

 無能力者の私にスキルを発動させるような謎の物体を頭に乗せていて大丈夫なのかな?

 頭を振って振り払おうとしても、髪にくっついてるのか離れない。重さはほぼ感じない。

「私は馬車でもなんでもない!離れないなら運賃払ってよ!」

 ふわふわもこもこは、じんわり暖かくなってきた。運賃代りに暖めてるのか。ほんわかしだした。見当違いも甚だしい。

「本当にあなたはなんなの?雲みたいな毛玉だけど、生き物でいいんだよね?」

 ふわふわもこもこは、頭の上で縦に揺れた。肯定してるのかな?

「あなた、[まもの]?」

 ふわふわもこもこは、横に揺れる。否定の意思を示してる気がする。

「ある程度の意思疎通は出来るのね?」

 縦に揺れた。

「あなたがくれた『まものつかい』スキルのお陰?」

 縦に揺れる。このふわふわが本当にスキルを目覚めさせたのか。

「あなたは[まもの]だ。」

 横に揺れた。『まものつかい』で意思疎通は出来るけど、もこもこは[まもの]じゃないらしい。

「あなたは[まもの]ではない。」

 縦に揺れる。やはり正体不明。謎のふわふわもこもこだ。

「はい。いいえで答えるのは問題なさそうだね。じゃあ、あなたの名前は?」

 頭の上でふわふわもこもこが広がる。わたしの頭をすっぽり包む。

『ノエ』

 頭の中に浮かんでくる。不思議な感覚だ。

「喋れるの?」

 横に揺れる。

「名前だけ?」

 横に揺れる。

「あとは何が出来るの?」

『ヒカル』

  私の名前が浮かんできた。

『キサラギヒカル』

 私の祖先で異世界人の名前だ。なぜノエと名乗る雲みたいな毛玉は私の祖先の名前がわかるだろうか。

「私はキサラギヒカルじゃない。そういえば、名乗ってなかったね。私の名前はヒカル・ハミルトン。キサラギヒカルは三百年くらい前の先祖の名前ね。」

 ふわふわもこもこは頭の上でもぞもぞ動いてる。

「あなたは何者?」

『ヒカルハミルトン』

「私の名前はいいから。聞かれて都合の悪いことは黙ってるわけ?」

『ヒカル』

「なによ、ノエ」

 名前を呼ばれたノエは嬉しそうにふるふると揺れている。

「結局、あなたは人様の頭の上で何をしたいわけ?」

『ヒカル』

 埒が明かない。

 このノエと名乗る謎の生物。

 私の祖先の名前を知っている。無能力者の私にスキルを目覚めさせた。こちらの言語を理解出来る知能の高さもある。

 ノエに口は見えるけど、発声器官が無いのか喋る事は出来ないんだろう。体を動かして意思を表現している。あと、私の名前を呼ぶと言うより私の頭の中に浮かべてくる。

 不思議生命体だ。

 記憶の中のまもの図鑑では、ガスクラウドに見た目は似ているが、あちらは気体だし、こちらはふわふわでもこもこだ。とても気持ちがいい。それにかわいい。

 新種の[まもの]とも考えられるが、本人曰く、[まもの]でもないようだし。

 そんな私の思案中、ノエはゆっくり私の頭でくつろいでいた。

 ふと思う。頭の上から離れない寄生生物だったらどうしようか。

 私の心配を察したのか、頭からふわりと降りて、目の前に浮かびながらノエがこちらを見ていた。


 どうしたの?と語りかけてくる目をしていた。

 

「一番大事な事をはっきりさせておきましょうか。」

 無駄に悩んでもしょうがない。シンプルに行こう。

「あなたは私の敵?」

 ふるふると横に揺れる。つぶらな瞳はまっすぐに私を見ていた。

 スキルの感覚なんだろう。不思議とノエの事が理解できた。ノエの望みも私はもうわかっていた。

「私は冒険者として、旅にでるの。ついてくる?」

 ノエは強く頷き私の肩に寄り添ってきた。

 撫でてあげると、喜んでいる。

「じゃあ、ノエを私の一番目の仲間にしてあげる。私は生まれたてのゴブリンより弱いから守ってくれると嬉しいな。」

 ノエは任せろとばかりに膨れて大きくなりドヤ顔をしていた。

 なぜだろう、この子は私と居たかった。それが自然と理解出来る。

 私にもこの子が必要に感じる。

 今日初めて会った不思議生命体なのに。


「『まものつかい』のレベルが2になった。」


 また、頭の中にメッセージが浮かんできた。

 今日まで縁が無かったスキルのレベルが上がる。

 

 私は力を渇望していたはずだった。

 今はレベルが上がった事よりも仲間が出来た事がとても嬉しい。

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