第4話 霊

2か月前、僕は何かしたか・・・

「思い出せませんか?」

「はい・・・これといって・・・」

「そうですか・・・」

太郎さんは、がっかりしていた。


「2か月前に、この近くの交差点で、交通事故が起きましたよね」

「はい。覚えています」

確か、運転手の居眠りが原因だったな。

幸い、死者は出なかったけど、けが人は出た。


「あなたは、そのけが人の方の応急処置をしましたね」

「ええ、たいしたことではありませんが・・・」

「私と惟子は、それを見たんです」

知らなかった。まあ、知っていてもわからないが・・・


「その時に、惟子は助けたいと思ったんです」

「僕をですか?」

「いえ、あなたについている悪霊をです」

「悪霊を?」

詳しく話を聞いた。


あの時、普段は僕に悪さをする悪霊も、その時はさすがに何も出来なかったと。

悪霊ではあるが、本当はいい人だったのかもしれない。

なので、成仏させてあげたいと・・・


「それで惟子さんは?」

「私はいいました。大切なのは、霊よりも生きている人間だと。

生きている人間を守れと」

「僕の事ですね」

「ええ。でも惟子は、私の言うあの人を悪霊の事と勘違いしたようですね」

太郎さんの眼はうるんでいた。


「でも惟子はききませんでした。絶対にあの人を成仏させる。

そうすれば、あの男の人も助かる」と・・・

「そうですか・・・」

「言いだしたら聞かない子でしたからね」


僕は何も言えなかった。

女性は女性の味方をしたがる。

たとえ、霊でも例外はないのか?


「で、つい言ってしまったんです。あの悪霊と男の人を、ふたりとも助ける事が出来たら、

独立させてやる」と・・・

「えっ」

「それで、惟子は飛び出して行きました」

「それが、先日ですか?」

「ええ。霊だけは見える子でしたので、それを頼りにあなたに声をかけました。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る