第6話さあ検証だ

「なにこれ?」


 つい声が漏れてしまった。ただ、倒れていたはずの変な生物が倒されて剣を首に突きつけられていたら誰でも声が漏れると思う。妹は…変わってないな。


「おい、何があった?」

「はっ。報告いたします。我々がこの少年を運んでいる途中に、この少年が「もう大丈夫だ降ろせ」と言いましたので降ろしました。すると少年は「皆はどこだ」と言いましたので、我々は此処へ案内いたしました。その後、わ「簡潔に言ってくれ」」

「少年が模擬戦を希望したので、返り討ちにしました」

「そうか。少年。何故模擬戦を希望したのだ?」

「まず剣を離せ!俺は勇者だ!世界が救われなくてもいいのか!?」


 おっ!?さあ、国王様はどう答えるのかな?


「何故世界が危機に陥っていると考えた?」

「俺が救うと決まってるからだ!」


「お兄様、どうでもいいので組手を始めましょう」

「いや待とうよ!?これ絶対面白いことになるって」


「出来れば黙っててくれないか君達…。で、何故君が世界を救うんだ?」

「俺が勇者だからだ!」

「君の周囲にいる人も全員勇者だ」

「俺がこの聖剣を担う勇者だからだ!」

「…おい、本当のことか?」

「はい。『聖剣召喚』というと同時にあれを持っていたので恐らくそうなのではないかと思われます」

「本当に決まっているだろうが!」

「その割には我が騎士に負けているようだが?」

「それは初めてだから仕方ないだろ!」

「ふむ…。じゃあ試してみるか。君達でやってみたい人はいないか?」


いや、取り巻きABC以外全員いるかもしれないけど、やりたがる人はいないと思うぞ。


「じゃあマサハルやってみてくれ」


…?


「は?いや、なんで?嫌でございます国王様」

「(妹の方、マサハルをやる気にさせたら何か一つ願いを叶えてやるぞ)」

「(___と_じ__でどうでしょう?)」

「(い、いいぞ…)」

「(じゃあやります)」

「そこ聞こえてるぞおい」

「お兄様頑張ってください!」

「よーし!お兄ちゃん頑張っちゃうぞ!」

「(なんだあいつ。単純すぎるだろ)」


 違う、単純なんじゃない。妹の願いを叶える為に全力を尽くそうとしてるだけだ。

全く意味は違う。


「魔法の使用を許可する。全力で相手しろ」

「い、いえ、しかし」

「舐めてかかると負けるぞ(多分)。勇者達に全力を見せるという意味合いもある」

「畏まりました」

「範囲は20で結界を張ってくれ」

「「「はっ」」」

「勇者方、この結界の中には入らないようにしてくれ」




「じゃあ始めようか」

「お願いします」


 魔法陣に気をつけて戦おう。相手は両手剣だから、力では勝てない。手数で勝負。まず左で攻め、相手の剣がブレるのを待つ。その後にみ


「来ないのか?ならば私から行くぞ」

「へ?…っっ!!危ねえ、いや、速すぎ」


 全身鎧で両手剣なのに、俺の全力疾走と同じぐらいで横薙ぎを振ってきた。避けるのがあとすこし遅かったら死んでたぞまじで。


「なんでそんなに早いんですかねえ!!!」

「私としては避けられたことに驚きなのだが」

「避けなきゃ死んでたから!?」

「即死でなければ帝級精霊薬で治るぞ」

「いらない情報どうも!」


 向こうには喋ってる余裕があるかもしれないが此方には無い。なんせ二度目の横薙ぎをジャンプで避けると同時に上から脳天を狙って右の短剣を下ろしたのに、俺から見て左にあったはずの両手剣で受け止めながら逆に攻めてこようとしてきてるからだ。

 流そうとしても流されてくれないし、逆に押し込まれる。仕方ないから離れようと思ったが宙に浮いてるから相手の腹を蹴って離れた。


「頑丈すぎるだろ!?これでもガチで蹴ってんだぞ!?」

「軟な鍛え方はしていないからな。それよりも、君は精霊と契約をしていないはずなのに強いね」

「どうも!契約の恩恵が羨ましいですよ!」

「私は契約はしていないぞ?」

「は?え?ちょ、待って」

「いいぞ」


……。

要するに、生身の人間が全身鎧で俺の全力疾走と同じ速さ。


「バケモンじゃねえか!?」

「失礼な。魔力を体内で循環させれば、身体能力は一時的に上げることができるぞ」

「魔力がどんなものか俺にはわからないんですよ!」

「じゃあ見せてやろう。これが魔法だ」

「なんで魔法陣が完成した状態で出てくるんですかね!?」

「よく避けたな?じゃあ続けていこうか」


 避けなきゃやけどするから!?火球を撃って来といて何を言ってるんですかね?

…なんで同じ魔法陣が5個も並んでるんですか!?さっきと同じだから多分火球だろうけど、魔法陣って書かなきゃ駄目なんじゃねえのかよ!?死ぬ!死ぬ!?マジでまずい。


「無言か。まあ次は10個だ」

「…」

「おぉ。よく避けたな」

「…」

「どうした。黙って」

「すみません。30秒待ってください」

「ああ、いいぞ」

「ありがとうございます」


 魔力と聞いて、ふと中学生の頃に自称仙人に気の見つけ方というのを教えてもらったことがあるのを思い出した。まず、自然体でリラックス。その後周りの全てに意識を向けながら深呼吸をし、目を瞑って自分の体の事を考えたり色々とする。他にも様々な事をすれば、


「…見つけた」

「ん?きっかり30秒か。じゃあ再開しよう。ん?何故短剣の持ち方を変えたんだ?」

「お楽しみってことで」

「まあいい。行くぞ」


 まだ見つけると言ってもそういった物が有るような気がするだけで、まだ確実には見つけていない。だから、出て来る魔法陣を注視すれば…よし。何となくは分かった。あとは、魔方陣を作るだけ。魔法陣を書くと言っていたし、手で書くんだろう。魔法陣だから魔力で書くだろうから、指先に魔力を込める。


「ん?」


 あとはさっきの魔法陣を移すだけ、は面白くないから繋げてみるか。多分科学と同じだろう。電力が魔力に変わっただけの回路だ。ラノベで言う魔法はイメージだ。だから、火の高圧力によるレーザーのようなものを想像しながら作る。ん?出来なそう?じゃあ一部を切り取って貼っつけて、…2個じゃ無理だなこれ。回路になっていない。最短数を計算し、いや、そもそも何が何かわからないから無理だ。


「おい!?何やってんだ!?」


 じゃあ、何が何か分かるためにいろんな式を連立させる。限界まで崩して検証。火が出て消えた。何も起きない。魔力が出て消えた。何も起きない。何も起きない。魔力が出て消えた。何も起きない。…………2種類の部位または2つの同じ部位を繋げて、何も起きない。何も起きない。火が5秒ほど出た。何も起きない。何も起きない。何も起きない。何も起きない。丸い魔力球ができた。何も起きない。何も起きない。魔力が集まった。魔力が拡散した。何も起きない…………3個、火が飛んで消えた。何も起きない。何も起きない。丸い火の玉が出来た。火が大きく燃えた。何も起きない。何も起きない。丸い魔球が飛んだ。火が圧縮されて消えた。火が広がって消えた。4個…………5個…………6個以降は実際での実験は危険な気がする。じゃあ脳内シミュレーション開始…………


「おい、妹の方。お前の兄は何をやってるんだ」「私程度じゃわかりません」「おい、城の魔術師や精霊術師とか呼んでこい!」「なんかたくさん火が発生してる!綺麗」「何あれ?」「あの人名前なんだっけ?」「夜咲優春だったと思う」「なんで覚えてんの?」「イケメンだったから」「おい、あれ大丈夫なのか?」「この模擬戦止めたほうがいいんじゃないのか?」「それは本当に止めてください!暴走しちゃいます!」「おい、妹の方。暴走するってなんだ!?」「文字通り暴走します。何を言っているのかは分からないし、何をやっているのかもわからない。本人も終わった後に一切記憶が無いんです」「おい、やばいやつの暴走じゃねえか」「ただ、その暴走中にやったことは全て暴走後にも出来るようになってるんで質が悪いです」「要するに触るな危険ってか?」「はい」「おい!結界術師全員連れて来い!」「はい!」「てか、あいつ魔力有りすぎじゃないか!?」「お兄様ですから」「おい、遥斗お前の友達やばいんじゃねえのか!?」「大丈夫だ!いざとなったら俺のデュランダルで止めてみせる!」「あ、ああ。頑張れ」「おう」「(遥斗のやつどうしたんだ!?)」「(いや知らねえよ!)」「お嬢様が悲しむ未来だけにはさせない」「(此方はなにがあったんだ!?)」「(いや、知ってたら苦労しねえよ!)」「あ、おい。なんか鳥が近くに降り立ったぞ」「なんだあの鳥勇者か!?」「俺が勇者だ!」「やかましい!」


25個まで終了。5以降、現実での使用はまだやっていない。じゃあ、…鳥?


「邪魔」

「「「「「……………」」」」」


 25個のうち、半分を魔力の量に作用すると思われる構成に、残りを火を作ると思われる構成にして、魔方陣を作る。結果消し炭すら残さないことに成功。火力の上昇に成功。脳内シミュレーションが正確かの確認。まず、何個かを順番を別に連立させる…。法則性……回路の数だけではなく、順番、繋げ方によって効果に差がある事の確認完了。


「おい、なんだあれ」「いや、知らないです」「あれって初級魔法だったよな?」「なんであんな上級魔法近くの魔法がポンポン打てるんだよ!魔力有りすぎだろ!」「ねえ、怖くない?」「い、イケメンには棘があるって言うしガクブル」「ガクブルって実際に言っちゃ意味ないよ」「なんでそんな余裕あるの!?」「おい、遥斗。あれ止めれんのか?」「無理です」「だよな…ん?遥斗がもとに戻ったぞ!」「おー!やっぱ他人のヤバイ状況を見たら冷静になれるのかな?」「多分そうじゃね?」


 繋げ方の差による効果の差の法則性の仮定完了。実験。仮定通りなら問題なく出来るはず。

魔力構成50火構成50収束構成40進行構成60拡散構成100。駄目だ。平面じゃ繋がらない。検証上は可能だったから出来ないということはないはず。だったら、立体?じゃあ、組み直そう。順番を変えると事故るから、順番を変えずに組み立てる。例えるならば、ジグソーパズルのようなものだ。ただ、立体のという注意書きが入るが…。








よし出来た。10分ぐらいかかったか?上空方向へ射出。貫通性、爆発性の確認終了。想定以上の効果有り。繋げ方の法則ある程度の理解完了。


「おい。なんだあれ。上空の雲全部消し飛んだぞ」「花火みたい」「確かに」「すごいねー」「たまやー」「「「たまやー」」」


「おい、これは論理上可能なのか?」

「流石に此処までは想像していませんでしたが、可能です」

「まじか」

「ただ、常人だと、この10分の1でも脳が処理できずに死ぬと思われます」

「何やってんだマサハル!?」


「これが一番大きいのですが、帝級精霊と精霊王の戦いが行われた時、このような魔法が5,6個同時に展開されたと文献には書かれてます」


「そ、そうか。何故人類は滅んでないんだ?」

「分かりません」


魔力っていうのは見つけられたし、使い方も完全に理解した。俺は優恵みたいな天才肌じゃないから、論理的に攻めていかないときつい。それと、おもったよりも魔力消費が激しかった。もう一発は無理だと思う。まあ、


「よし、出来ました。模擬戦を再開しましょう」

「い、いや、ちょ、ちょっと待て。お前の勝ちで終了だ」

「え?なんで?」

「いや、お前さっき何をしたのか覚えてるだろ?」

「花火を作って打ち上げただけですよ?色は赤一色になってしまいましたけど」

「お前それで雲を全部消し飛ばしただろ!」

「そうですよ?」

「あ、ああ。だから絶対それはもう撃つなよ!」

「え?いやですよ」

「何?この世を滅ぼすつもりなのか?」

「なんでそんなことをしなきゃいけないんですか?」

「しないんだな?しないんだよな?」

「ええ」

「「「良かった」」」


 何をそんなに心配してるんだ?

 それよりも滅茶苦茶面白かった。やっぱり、検証は好きだ。『学習能力』のチートを貰ってよかった。まず、忘れることがない。次に、思考に限界がない。他にも、同時に何個か物事を考えたり、思考速度を上げたり出来る。脳内でシミュレーションが出来るのが、今回は一番助かった。

 まあ、此等は全部最初はできなかったが徐々に出来るようになった。将来的にもっと凄いことができるようになるかもしれない。

 楽しみだ




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【設定】

ファイアーボールの魔法陣

構成:魔力1

   魔力球化2

   火3

   収束1

   方向2

   進行2

   拡散1

   消滅1

分類:初級火魔法


自称花火の魔法陣

構成:魔力50

   火50

   収束40

   進行60

   拡散100

分類:上級火魔法


【自称花火】

構成数の分類は上級魔法だが、火力以外の全てを削ぎ落としているため、火力は王級から、帝級程。魔法陣は3次元へ展開されている。

ファイアーボールの400倍ほどの魔力消費量。


近衛騎士平均魔力量:ファイアーボール500発分程。



【裏設定】

読みたい人だけ読んで下さい。


魔法陣の『構成』は、分子の原子だと思ってくれるとわかりやすいです。

要するに、『構成』はこれ以上崩せない、魔法陣の中で最小な物です。

分子が原子から構成されているように、魔法陣も『構成』によって構成されていると思ってください。

この、『構成』も電子や原子核のような物で作られています。

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