第5話もしや、この世界がおかしいのか?

「ん?君達はいいのを選んできたんだな」

「そうですか?使い勝手が良さそうなのを選んできたんですけど」

「ああ。その胸当てもローブも両方龍の素材で出来ている。妹さんのもそうだぞ」

「へぇ。やっぱり龍っているんですね」

「ああ。この大陸では出現記録はあっても討伐記録はないがな」

「え?じゃあこれってどうやって作ったんですか?」

「魔王が友好の品として龍を丸々10体持ってきた。その内の2体を我が国で受け取り、作ったのがそれだ」

「国王様。魔王とはどういったものなんですか?私達がこれを使う予定なので、あった時にお礼を言いたいんです」

「見た目は年端もいかない少女だった。まあ、口癖が『平和は大切』らしいから戦闘になることはないと思うぞ」

「お礼は私一人で言うことにします」

「王様、遥斗達はまだ戻ってきてないんですか?」

「一度来たが、全身鎧でろくに動けていなかったから戻しに行かせた。もうすぐ戻ってくると思うぞ」


 全身鎧って…馬鹿なんだな。それと、結局ローブは白と黒のを選び、靴は変えなかった。

そういや、


「王様、優恵が着けている白いローブなんですが、なんでこんなに綺麗なんですか?」

「ん?どういう意味だ?」

「要するに、汚れとかが一切無いのが不思議なんです」

「ああそれは、清浄の精霊術が付与されているからだ。他にも、耐熱や耐寒、防刃、防魔といった精霊術も付与されている」

「凄いんですね」

「ああ。それと、彼らも戻ってきたようだぞ」

「優春黒いな!」

「それ聞こえが悪いから止めて」

「ていうか、ローブなんてどこにあった!?格好良すぎる!俺はこのデュランダルしか見つからなかったよ」

「デュランダル?」

「ああ!かっこいいだろ?俺がつけた愛剣の名前だよ!」

「お、おう。そうか、かっこいいな」

「だろ?」


「お嬢様、私が貴方を守ります」

「私の横にいていいのはお兄様だけなの」

「すみません。出過ぎた真似をいたしました」


 遥斗も大概おかしくなってたけど、快?もおかしいな。それもう執事じゃなくて騎士だし。あと、妹よ俺じゃあお前の隣は無理だと思うぞ。お前と違って天才じゃないから。


「…。あー、修練場に移動しようか。そこで他の勇者達と合流しよう」

「分かりました」

「じゃあついてきてくれ」

「このデュランダルを総司達に自慢するんだ!早く行きましょう!」

「もしかして我がおかしいのか?我が世界がおかしかったのか?」

「王様、変なことを言ってないで早く行きましょう」

「ああ、理由はどうしようか。(マサハル。我が娘と婚約してくれないか?人格に問題は無いだろう?)」

「(それ本人に聞くことじゃないですよ?それと、婚約とかは妹に言ってください)」

「(恥ずかしくないのか?妹に任せて)」

「(そんな見え透いた煽りには乗りませんし、妹に頼っても何も恥ずかしくないですね)」

「ちっ」

「お兄様?王様、何を話していたんですか?」

「い、いや特に何も話してないぞ。それよりも早く行こうか」


 やっぱり暴走してるよな。なんでだ?理由はある感じだったしな。んー、戦闘狂だったっけ?いや、でもそんなことはないと思うんだよな。戦闘狂だったら、挑戦は全部組手とかそんな感じにすると思うけど、組手は3日に一回ぐらいだったし。

 戦闘狂の線は無いとして、他には…逆に俺だったら何があるか。優恵の感じだと俺に関係があることだったから、俺が優恵関連であったらいいことを考えれば分かるはず。

 …分かったかもしれない。俺だったら優恵に友だちができたら安心するし喜ぶと思う。それと一緒で、俺に友達ができたことを喜んでくれてるのかもしれない。推測の域は出ないが、多分こんな感じなのではないだろうか?


 それよりも、さっきから周囲が怖い。剣を撫でて喜んでる遥斗と、完全に無表情な快、偶に笑みを浮かべてる妹、ずっと引きつった笑みを浮かべている王様。

 逃げていいかな?

と言っても、逃げて迷う未来しか見えないんだけど…ということで逃げるのはやめます。


「王様、後どのくらいで着くんですか?さっきから結構歩いてると思うんですけど」

「もうすぐだ。ほら、この先に扉があるだろう?そこを出ればもう修練場だ」

「先行きます!ほら、快も行くぞ!」

「ああ!お嬢様。先に行かせていただきます」

「おい、お前ら走るなよ」

「いいじゃないですかお兄様。それよりも、王様。今は三人なので聞きますが、さっきは何を話していたのですか?」

「戻ってきてくれ!」

「戻ってくるわけないじゃないですか。それよりも、お兄様に女を近づけようとしないでください。と、言いましたよね?」

「い、言われたし、我はやってなどいないぞ」

「そうなんですか?」


うん、いい笑顔。やっぱり暴走してるな。今までは実際に近づけるまでは何もしなかったのに、今は近づけようとしただけで暴走してる。これ、俺だけじゃ制御不可能なやつだ。まじで、妹の制御とかいう職名で募集したい。楽しんでくれてる分には別にいいんだけど、怖い。


「おいマサハル、助けてくれ」

「王様」

「なんだ?」

「お兄様?私は話を聞いてるだけですよ?何か駄目なのですか?」

「駄目じゃないよ。まあ、そういうことだ王様♪」

「あぁぁぁ」


 満面の笑みを浮かべてサムズアップをしてやることしか俺には出来なかった。


「で、何を話していたんですか?」

「いや、何も話していないぞ」

「そういうのはいいので、正直に話してください」

「いや、な」

「話しますよね?」

「い「話さないんですか?」

「話します」

「ありがとうございます」

「我の娘と婚約しないか?と聞いたのだ」

「すみません。聞き違いでしょうか?もう一度言ってください」

「わ、我の娘とこ、婚約しないか?と聞いたのだ」

「…娘、とは?」

「君達が召喚された時にいた女の子だ」

「…、ならいいです。どうせあの女じゃ私には勝てませんから」

「そ、そうなのか」

「ええ、お兄様に直接『優恵のほうが可愛い』と言ってもらいましたので」

「そ、そうか」

「ええ」


うん。落ち着いてくれて良かった。ここで暴走されたらほんとうにどうしようかと思った。


「王様、行きましょうよ。ほら、優恵も行くよ」

「あ、ああ。(マサハルはあれを見て動じないのか?)」

「慣れました」

「そ、そうか(我がおかしかったのか?ん?ん?いや、だが、ん?)」

「そうですね。組手を早くやりに行きましょう」

「そうだな。何を考えてるんですか王様?先に行きますよ?」

「んぁ、ああ。我も行こう」


 そういえば、修練場では精霊術と魔法を見せてるんだよな。普通に楽しみだ。

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