第4話

新緑の草陰から現れたのは、森の王者だった。

まとっているオーラが、他の動物たちと別格だと思い知らされる。

冷静な顔を保っているが、自分より3倍は大きな虎の姿に、狼は恐怖でいっぱいだった。

弱ったふりをして近づいてくる虎の作戦だったのかもしれない。と、狼は思った。


しかし、悠然と歩いてくる虎の姿はとても美しく、なぜか目が離せなかった。

「隣に座ってもいいかな?」

虎の問いかけに、少し驚いて狼は答えた。

「どうぞ」


なぜわざわざそんな事を聞くのだろう?

好きな場所に好きに座ればいいのに。

あなたは誰もが恐れる森の王者で、誰にも気を使うことなく生きてきたはずでしょう?


何も話さない虎の姿を、チラリと横目で見た。

獲物を追う殺意のある目はしていない。

水面の光が虎の目に反射して、コバルトブルーの瞳

は穏やかに川の流れを見つめている。


ふいに、怪我の心配をされて、助けてもらった礼を言った。

虎はまたゴニョゴニョと口ごもり、俯いている。


変な人。

狼は思わずまた笑ってしまった。

誰もが恐れる王者が、礼を言われて照れるなんて。

張り詰めていた緊張が解けた。


2匹は、また黙って川の流れを見つめた。

不思議と狼は、居心地の良さを感じていた。

何も話さなくても分かり合える気がした。


この出会いが自分の人生を大きく変えるものになろうとは、この時の狼はまだ知る由も無い。

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