第3話

その日、虎と狼は出会った。

普通なら交わることのない別の種族。

虎はゆっくりと狼に歩み寄った。

狼は足から血を流していたが、背筋を伸ばし真っ直ぐに虎を見つめていた。

その瞳がとても綺麗に見えた。


「隣に座ってもいいかな?」

虎が尋ねると

「どうぞ。」

と狼は答えた。

のそりと座り、虎はさてどうしようかと考えた。

ここに来てはみたものの、何を話せばいいかわからない。

「あの…足、大丈夫かい?」

散々悩んで出た言葉は、それだった。

「ええ。大丈夫。

さっきハイエナに襲われたのだけど、あなたのおかげで助かったわ。

ありがとう。」

狼の言葉に、また心が跳ねた。


感謝の言葉なんて、もういつから言われていないか記憶にない。

どれだけ頑張っても当たり前の世界で、ずっと生きていたのだ。

「いや、そんな…俺はなにも…」

こういうときは何て返すのが正解なんだったか?

虎の言葉尻は小さくなり、またゴニョゴニョと口をつぐんだ。


狼はまた、フッと笑った。

「あなたって変わってるね。」

そう言って微笑んで虎をみた。


突然、なんとも言えない感情が虎に生まれた。

泣きたくなるような、嬉しくて走り出したくなるような、胸がグッと苦しくなるような。

その感情の名はわからないが、虎はまだここにいたいと願った。

誰かといて、心地良いと感じたのは初めてだった。



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