とっておきの場所へ
ドレスは嫌いだった。
よくお披露目会やパーティで定期的に着ることはあったのだけれど、動きにくいし重いし息苦しいし、いっそのこと破り捨ててしまおうと考えたくらいだった。
──でも、今は違う。
少しでも可愛く見られたい。少しでも、綺麗に見られたい。
そのためなら息苦しくても我慢できる。
化粧だって顔に泥を塗られているようで嫌いだったけれど、ちょっとだけ背伸びができたような気分になれて今は好きだ。
「はい、できたわよ」
「!」
恐る恐る目を開けてみると、キラキラ輝く魔法の粉でも塗したような自分が見えた。ほんのりと頬が赤く染まるのは、化粧なのか自分の熱なのか。唇がきゅっと結ばれる。
おばあちゃんに借りたドレスも綺麗だった。星空を閉じ込めたような漆黒の黒に粉状のマナ鉱石を散りばめたデザイン。袖のフリフリがどうにもくすぐったい。
お母さん遺伝の金髪は頭部の高い所にまとめられている。うなじに髪の毛がこちょこちょ当たって気になるけれど、今はそんなことを気にしている場合ではないのだ。
ドレスも化粧も施して貰ったからには後には引けない。
私は今からノブナガ君に告白しないといけないのだ!!!!
「やだ、私の孫可愛すぎない……? ぎゅ~っして高速なでなでからの頬にキスをしたいけど、今は色々崩れちゃうから駄目ね……」
おばあちゃんがそう言ってしょんぼりする。私はなんだか照れくさかった。
「お、おばあちゃん、骸骨さん……ありがとう。わ、私、行ってくる!」
「うふふ。その意気よエマ。告白する場所にとっておきの所があるの。骸骨さんが案内してくれると思うわ。私はここから鑑賞……こほん、応援しているから。ほら、行ってらっしゃい!」
「え、今おばあちゃん鑑賞って言わなかった!?」
私は凄く恥ずかしい事を言われたような気がするのだけど、おばあちゃんはそのまま散らかった広間を片付けるとかなんとかで私を追い出した。一人の骸骨さんが私の手を握り、頷く。この子が案内係かな?
骸骨さんに導かれるままに廊下を歩いて行けば、曲がり角から声がする。それは今一番、私を動揺させる声だった。
「え、ちょ、修行が終わったばっかりなのにどうしたの? 何するつもりなのさ!? ……あ、」
「あ……」
私は思わず固まってしまう。変な声が出てしまった。ノブナガ君とばったり対面したのだ。
ノブナガ君はいつもの赤いハチマキをしておらず、オールバックだった。そして私と同じ漆黒の、燕尾服。
どうしよう、目が合わせられない。展開が早すぎて追いつかない!
ノブナガ君の方も私の方を凝視したまま、石になっていた。
私達は恐る恐る視線を合わせて、ぎこちなくはにかんだ。そうするしかなかった。
声の出し方を忘れてしまったかのように、口が上手く動かない。沈黙が続く。
「……、……っ、……あ、その……」
ノブナガ君が魚のように口をパクパクさせている。私は俯いた。
今の私は、彼にどんな風に見えているのだろうか。ちゃんと可愛く見えてる? 第一声になんて言われてしまうのだろう……。怖い。
「──綺麗、だね」
「!」
顔が一気に熱くなる。すぐに顔を上げて、ノブナガ君を見上げる。ノブナガ君の顔は真っ赤だった。口を片手で覆って、私から目を背けている。
「えっと、いつものエマちゃんも可愛いけど、今の君も素敵だね」
「はぅ!? ~~~~~っ、えっと、その、ぁ、あり、がとぅ……」
声が今にも裏返りそうだ。でも嬉しかった。ちょっと泣きそうになるくらいには。
すると私とノブナガ君の腕を骸骨さんが引く。おそらくおばあちゃんのいうとっておきの場所に案内してくれるのだろう。つまり、いよいよというわけだ。頑張れ私、頑張れ私、と心の中で念じる。
……っていうか、突然告白するのもおかしくない? まず雑談から始めるべきなのかな。しまった、おばあちゃんに教えてもらえばよかった。ど、どど、どうしよう……。
「エマちゃん?」
ハッとなる。気づけば周りが真っ暗で驚いた。ノブナガ君の声が近くに聞こえる。
「なんだかこの骸骨君、洞窟に入っていくんだ。何か知ってる?」
「え? い、いや、分からない……」
「そうだよね。一体どうしたんだろう。修行が終わるなり身体を強引に清められて着替えさせられてこうなっちゃったんだよね……エマちゃんも?」
「う、うん。多分、似たような感じ……」
ごめんノブナガ君。絶対私のせいです。
しばらく洞窟を進んでいくと、骸骨さんの固い感触がなくなった。手を離されたのだ。
私とノブナガ君は「えっ」と声を上げて暗闇を探す。骸骨さんの気配はすっかり消えていた……。
***
4月には完結できるかなぁ~と思います。そして完結と同時にリメイク版を連載開始したいな、と。
リメイク版を出す場合は旧版は削除か非公開にした方がいいのかと思いますが、カクヨムの規律的にはどうなんでしょうか。ひとまずはリメイク版を連載してもこのページは残していく方向でいきます。
次の更新は今夜の日付が変わったころ。
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