迷路を進んで
*今までのあらすじ*
シュトラール王国、テネブリスを筆頭に光の勇者として世界を救うことになったエマ。
そのためには大天使ラファエル、ガブリエル、ウリエルの試練をクリアして完璧な〝勇者の加護〟をもらう必要があった。
無事にラファエルの試練を乗り越えたエマだが、ガブリエルのいる冥界へ向かう道中に悪魔ベルフェゴールに出くわしてしまった。不死の悪魔ベルフェゴールに苦戦したものの、ノブナガの一手によりベルフェゴールは死亡。彼の人間への思いを見届けたエマ一行は次のガブリエルの試練に挑むため、冥界へ足を踏み入れたのだった──。
***
アトランシータ同様、エルピスには入り口周辺で待ってもらって私達は冥界へと足を踏み入れた。
冥界の中は当たり前だが、気味が悪い。鳥肌がずっとこの世ならざる冷気に己の存在を主張しているし、私の光魔法がなければ上も下も前も後ろも分からない状態だ。どことなく、死を予感してしまう。その曲がり角の向こうにでも、死が待っているような気がしてくる。
「人間が死んだら、こんな寒くて寂しい所に連れてこられるの……?」
私は思わずそう呟いてしまった。慌てて口を閉じて、師匠の顔を見上げる。師匠は「ガキが気を遣うな」と私の頭をぐしゃぐしゃ掻き乱した。
「言っておくが俺は死後冥界には来ていない。ちょっと理由があってな。冥界という安泰は与えられなかった。まぁ、この入り口は現世からの侵入者用にこんな感じであって、死者には住みやすい世だと聞くぞ」
「そ、そっか……」
師匠は冥界に行けなかった? それも、師匠の生前に関わることなのだろうか。
ますます師匠の生前のことが気になる。けれど、師匠とは約束したんだ。師匠の生前はこの旅に果てに師匠自身から話してもらうんだって!!
「それにしても本当にここが冥界の入り口──ケルベロスの大迷路なのかな? 道は一本道のようだけどさ」
「空間魔法を使われている可能性か、はたまた俺達の方向を認識する能力を狂わせる罠が仕掛けられているのかもしれないぜ。気付かないうちに同じ場所をぐるぐる回ってたりしてな」
リュカの言葉に私とノブナガ君は顔を青ざめた。リュカはそんな私達にやれやれと膝を曲げると、自分の爪で地面に大きく星印をつける。
「本当は糸があればよかったんだが……ひとまず今まで通った道には一定の距離ごとに印をつけてる。これで同じ道を通っているのが分からないなんてことにはならないだろうけどよ……」
「流石リュカ! あったまいい~!」
「っ、」
私がリュカにハグをするとリュカが明らかに動揺した。
目をキョロキョロさせて、私の光魔法に反射してリュカの赤くなった顔が見える。
「リュカ?」
「~~っ、馬鹿。突然抱きつくなっての」
「えー、こんなの小さい頃からやってるじゃん。一緒に寝たりしたし」
「そ、それはまだ俺達が子供だったからだ! 前から言おうと思ってたんだけどよ、お前俺のこと幼馴染みとしか思ってないだろ」
「? うん。だって幼馴染みじゃん」
「いや、だからな……俺も一応は男だぞ」
「?? 知ってるけど」
「だぁっ~~~~~!!」
リュカが突然頭を掻きむしって発狂する。私はそんなリュカに首を傾げた。ノブナガ君がリュカを慰めようと手を伸ばしたが、リュカは「お前にだけは慰められたくねぇ!」とその手を払っている。すると師匠が私の肩に手を置いた。
「お前のその色々と容赦のないところは母親譲りだな……」
師匠は何かを悟っているとでも言いたげにどこか遠くを見ていた。どういう意味かと尋ねようとも思ったけれど、前方から独特の足音が聞こえてきたのでリュカとノブナガ君に声をかける。
皆で前方に意識を向ければ、人影が見えた。
「──骸骨……?」
私が呟いた通り、光に照らされた人影はたちまち独りでに動く骸骨へと姿を変える。
彼は私達を見るなり口をコツコツ動かして、私に近寄ってきた。師匠がすかさず私を己の背に隠すが、私はそんな師匠の背中をひょっこり抜け出す。骸骨なんて、大好きなおじいちゃんですっかり慣れてしまっているので怖くはない。むしろ好意的に見えるくらいだ。
「師匠、ちょっと過保護すぎ」
「なっ、おま、危ないだろ! むやみに近づくな!」
「大丈夫。敵意はないよ。それくらい私にも分かるもん」
私は骸骨さんに軽くお辞儀をした。すると向こうもお辞儀を返してくる。
骸骨さんは興味深そうに私の聖剣を見ると、なにやらうんうん頷いて私の手を握ってきた。
「どうしたの?」
コツコツコツ。何か言いたそうに口をパクパクさせる骸骨さん。そうしてぐいっと私の腕を引っ張った。どうやら私をどこかに連れて行きたいようだ。リュカが私に釘を刺す。
「罠かもしれないぞ」
「……分かってる。でも、試練を突破するには乗り越えないといけないことなのかもしれない。皆、私についてきてほしい」
ノブナガ君が「勿論!」と微笑んでくれる。私はそんな微笑みに少しだけ胸躍りながら、骸骨さんの後を付いていった。骸骨さんは私の腕を引いて、進む進む。道中、沢山の骸骨さんを見かけたけれど、彼らは私を物珍しそうに見た後に皆恭しくお辞儀をしてくれた。彼らにとっての私とは一体なんなのだろう。普通なら侵入者だって邪険に扱うところじゃないのかな。……まぁ、どうやら彼らは言葉を話せないようなので、尋ねても分からないことなのだけど。
──するとここで、今まで狭い道だった視界が一気に広くなる。
私の光魔法はどういうわけかその瞬間消えた。
「おい、エマ。光が消えたぞ」
「あれ、魔力切れ? いや、そんなことはないけど……光球を誰かに潰されたのかも」
「誰って、誰にだよ……」
「……ねぇ、嫌な予感するの俺だけ?」
その時だ。リュカが変な声を上げる。どうしたのかと聞けば、リュカの頭にべとべとした液体がついていた。それはノブナガ君の頭の上にも降りかかってくる。
私は恐る恐るもう一度光魔法の光球を生み出した。そして上を見上げると──。
「ぐるるるるる…………」
三つの首を持つ巨大な番犬がそのつぶらな瞳で私達を見つめていた……。
***
あとひとつの連載、カクヨムコンも終わって落ち着いたのでこっちをメインに更新していきます。
6月までに完結目指します。
そうしたらリメイク版を一からまた書いていくか公募用に書きなおすのも視野にいれていきたいと思います。ひとまずは完結!
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