弄ぶ
死なない悪魔、ベルフェゴール。
そんな化け物に付け焼き刃も同然の私がどう戦えばいいの?
「神を殺すような武器を持ってくるくらいしねぇと、俺様は死なねぇ!」
ベルフェゴールの笑い声が頭にキンキン響く。
額を抱え、足が崩れそうになった。けれど。
「……
どこかで聞いたような台詞だ。どこかで──。
あぁ、確かアレは──。
「ノブナガ君!」
私はノブナガ君を見た。ノブナガ君は力強く私に頷く。
勝機がある、と。この悪魔を殺す策を持っている、と。
力強い瞳が私を映した。
なら、私の役目は……。
あいつの、隙を作ること!
「リュカ、私と一緒にノブナガ君の援護を!」
「! あ、お、おう!?」
獣の姿に戻っていくベルフェゴールに向かって走る。斜めの太刀筋をなぞる様に聖剣を振り落とした。
両手剣での攻めはどうしても動きがワンテンポ遅れるため、勢いを落とさないようにそのまま剣を一回転させ、避けた獣にもう一度空を切る。
しかしその剣先が悪魔の身体に触れることはない。
それはリュカの鋭い竜の爪でも同じだった。
「はははっはぁ! 遅い! 遅いぜお前らぁ!」
ベルフェゴールはカウンターとばかりに私達の身体を無数に切り裂いていく。
避けようにも次の瞬間には背後にいるのだから、どうしようもない。
獣の姿故か、素早さは私達の何十倍も上のようだ。
な、何が怠惰の悪魔よ! バリバリ動けるじゃん!
心の中でそう悪態を吐きながら、私は滲む痛みに顔が歪んだ。
これ、もう完全に、遊ばれてる!
「ほら、もういっちょあがりぃ! こんな傷ついちゃ嫁のもらい手もねぇんじゃねぇか!? 勇者ちゃんよ!」
からかうように狼が笑う。私はぎぎ、と音がするくらい歯を食いしばる。
「よ、余計なお世話!!!」
「──でもよ、もう飽きてきたわ。お前、同じなんだよな、攻撃が」
「!」
それは師匠にも言われた事だ。思わず動揺してしまった。
リュカがベルフェゴールに牙を剥くが、ベルフェゴールは欠伸を一つ溢す。
「がっ!?」
「! リュカ、」
ベルフェゴールは襲いかかってきたリュカの上にのしかかり、その肩に噛みついた。
リュカの悲痛の叫びが響いて、耳を覆ってしまいたくなる。
……頭に血が上ってしまった。
「エマ、待て!」
師匠の声がする。しかし私は何も考えないまま、いつものように、同じパターンで剣を振ってしまった。
何度も私の剣を受けたベルフェゴールはその剣先に既に飽きてしまっているというのに──。
「よっ、」
あっさり避けて、リュカを投げ捨てた彼の目にはきっと私の背中は随分間抜けに見えただろう。
そ、し、て。
しかいが、ゆれた!!!!
なにがおきた?
わからない。
ゆれる。くらくらする。
とおくで、のぶながくんとししょうのこえがする。
あれ、おかしいな。
ねむくないのに、なんで……。
まぶたがかってに、おちる。
***
「──エマちゃん!」
ベルフェゴールを殺す一手を見定めていたノブナガが、その集中を解き、声を上げる。
ベルフェゴールはエマを嘲笑いながら、後頭部を後ろ足で蹴りつけた。その反動で高く舞う。
一方でエマの金髪は儚く揺れ、ベルフェゴールの爪が頭部に当たったのか血も見えた。
エマの身体が地面に崩れる。その上にベルフェゴールは着地し、軽く飛び跳ね始めた。エマの身体を、弄んでいる!
「てめぇの父親の方がまだ勇者してたぜ小娘。まぁ、所詮は小娘ということか」
ベルフェゴールはエマの金髪を持ち上げ、顔を覗き込む。
エマからの反応はなかった。悪魔はつまらないと呟いた。
「……ま、あの破廉恥女と土の勇者へのいつかの礼に丁度いいじゃねぇか。悪魔っつーのに晴々とした気分だ」
そしてベルフェゴールは無抵抗のエマ顔に唾を吐き飛ばした。
べチャリとエマの頬にベルフェゴールの唾液が──。
と、その瞬間。
「──っ、」
ノブナガの中で、何かが疼いた。
「──サラマンダァァア!」
「!?」
突然真名を呼ばれたアモン、否、サラマンダーがハッとする。
ノブナガがサラマンダーの触媒である腕輪
「お、おい! 馬鹿野郎! 気持ちは分かるが落ち着けノブナガ!!
「うるさいっっ! 黙って俺に力を貸せ!!!! あいつ、エマちゃんを──!!」
契約した主の命令に逆らえないサラマンダーは主の言葉通り、抵抗も虚しくノブナガの身体に吸い込まれていった。
目の前でアモンが消え、自分を守ってくれる者を失ったアルがノブナガに恐怖の表情を浮かべる。
刹那、ノブナガの身体から湯気が舞い、その顔はベルフェゴールへの怒りで満ちていた──。
***
二ヶ月も更新せずにすみません。まだ読んでくださる方がいるといいのですが。
ひとまず今日でこの「皆さん、紹介します。こちら私を溺愛するパパの“魔王”です!」を書き始めて丁度一年になりました。飽きっぽい自分にしては、続いてるなぁと思います。
今日からまた更新頑張っていきます。とりあえず早くウリエル編いきます。
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