死なない悪魔

 輝きを取り戻した聖剣にベルフェゴールはアルを手放し、エマに釘づけになる。


「てめぇは、」

「私はエマ! 前にも言ったけど、大天使ミカエルに選ばれた光の勇者!」


 エマはベルフェゴールへ地を蹴った。

 ベルフェゴールはひとまずエマの剣筋を避ける。

 アルの傍に来たエマはそっと腰を下ろして彼の顔を覗きこんだ。


「お、お前……なんで、」

「助けに来たの。勇者だからね」


 エマがにっこり微笑んで、アルの頭を撫でる。

 アルはそんなエマに唖然とした。

 しかしアルが何かを言う前にエマはリュカの方に彼の背中を押す。


「リュカ、アル君をベックスさん達のところへ」

「はぁ!? 俺!? エルピスは!?」

「あのねぇ、ドラゴンに乗るのもコツがいるんだよ。アル君一人じゃ落っこちるかもしれないでしょ! リュカが運んでくれるのが一番なの!」

「はぁぁ!?」

「ねぇ、ちょっとまずいよ!」


 ノブナガの声にはっとするエマとリュカ。

 見ると周りはすっかり歩く屍アンデッド達に囲まれているではないか。

 しかも上空にも数多の生首が漂っており、エマ達を監視しているようだった。

 アルがエマの服を握りしめる。その顔は涙で散らかっていた。


「ご、ごめんなさい……ごめんな、さい……俺、分からなくて、こ、こんなに怖いんだって、」


 震えるアルの声にエマは一瞬キョトンとしたが、口角をきゅっと上げてアルの頭に手を置いた。


「こらこら、男の子が泣かないの」

「え? だ、だって……」

「大天使様に認められた勇者が君を守るって言ってるのよ。胸張ってどんと構えてなさい! 説教は無事に帰った後にたっぷりしてあげるから!」

「!」


 アルは必死に涙を拭いながら頷いた。

 そしてエマの視線がベルフェゴールに向く。

 いつの間にかエマの隣にはノブナガの腕輪から顕現したアモンが並んでいた。


「……エマ、言っておくがガキのことは気にしなくていいからな」

「! はい、ありがとうございます師匠」


 聖剣を構え、ふぅーっと腹の底から息を吐くエマ。

 ベルフェゴールは黒く疼く身体をぶるぶる震わせ、エマから目を離さない。

 


「いいぜ、いいぜ! あのガキには心底ガッカリしたが、お前もいたんだったなぁ! エマだったか? はは、こいつはいい! 最高だ!」


 興奮したように息を荒げるベルフェゴール。その必死さにエマはどこか違和感を覚える。

 だが考えても埒が明かない。攻撃しなければ。

 ベルフェゴールと修行時のアモンを微かに重ねながら、攻めのイメージを構築していく。

 

「──っ、」


 イメージが出来た瞬間に、地を蹴る。

 強化魔法が指の先まで染み渡っているのか、全身に熱が回っていた。

 剣を、あの悪魔に突き刺すイメージは完璧だ。

 

 しかし。


「……えっ」


 思わず漏れたエマの声はなんとも緊張の欠片もない。

 それもそのはずだ。ベルフェゴールは聖剣を握りしめ、その刃の先を

 蒸気が見える。肉が焼けたような音と匂いもする。

 エマはベルフェゴールの懐から、彼を見上げた。

 

 ベルフェゴールは──笑っていた。


「は、やっぱりな。やっぱ、加護が全て揃ってねぇなまくらじゃあ、殺せねぇか……」

「な、なにして、」

「エマ! 離れろ!」


 アモンの声にエマは我に返り、聖剣を素早く引き抜きベルフェゴールから距離をとる。

 ベルフェゴールは苦しそうに呻きながらも、ニタリと片口角を引き上げた。


「はは、ははは、残念だったな勇者……俺様はよ、他の悪魔よりずぅっと死ににくい体質タチらしくてな……そんな鈍らじゃ精々……っ、」


 そうベルフェゴールがエマに語り掛ける間にも、ベルフェゴールの腹の穴は修復を始めている!

 

「──、一時の時間稼ぎってとこかな……前回の戦いで触れた時はもしやと期待はしてたんだけどよ。残念だ」

「!? だ、大天使の加護に敵う悪魔がルシファー以外にいるわけがない!」


 ルシファー以外にも聖剣でも完全に浄化出来ない悪魔がいる。

 その事実はエマにも大きな衝撃だろう。

 みるみると元通りになっていくベルフェゴールの焼けた皮膚を恨めしく睨みつけながら、エマはベルフェゴールが今までよりも不気味に見えた……。



***


コピペミスってましたすみません。てへ。

スランプ中です。

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