怪しい師匠
ついに!
師匠との特訓の成果がほんのすこーしだけど現れ始めてきた。
師匠の身体にやっと墨をつけられることができた。掠ったのではなくちゃんと当たったのだ!
師匠はがしがしと大袈裟に私の頭を撫でてくれる。
私は十三歳なので「これくらい当然だよ!」と言うけれど、内心とても嬉しかったりしたのだった!
「エマ、今日の修行はここまでだ」
師匠の言葉に頷いた。
周りを見ればリュカとノブナガ君がいつの間にかいなくなっている。
師匠曰く、ノブナガ君は別の修行を与えていて、リュカは勝手にいなくなったんだって。
ミカ君が元の子猫の姿に戻るとフラフラと私の胸を抱きしめた。
「ふにゃぁ。がむしゃらに振られる方も意外に疲れるもんだ……」
ミカ君は相当疲れているようだ。というか、大天使って疲れるんだ……。
申し訳なさを感じながら、そのまま私の胸の中で寝てもらう。
師匠がそんなミカ君に怖い顔をしていたので眉間の皺を伸ばしてみた。
「師匠、私は別に気にしてませんよ。ミカ君はなんていったって大天使で子猫ですよ!?」
「む、だ、だが大天使でも下心があるかもしれないだろ! エマ、お前は男にもう少し警戒心をだな……」
「! し、下心って……!!! あははは!! 師匠ってパパみたいなこと言うんですね!」
そう言うと師匠は少しだけむっとしたような顔になって「やめてくれ」と言った。
……ん???
「──あれ? 師匠、パパのこと知ってましたっけ?」
「……。……シュトラール王国の国王様だろ。お前が言ってた」
「…………、」
やっぱり怪しい。師匠はママだけじゃなくてパパも知ってる……?
師匠をじっと見ればそっぽ向いているから顔が見えない。
うーん、ママとパパとどんな関係なのか聞いてもいいのかな。いやでも……。
すると大きな手の平がポンポンと私の頭を優しく叩いた。
「エマ。俺のことで色々感づいてるみたいだけどよ、」
「!? え、あ、そ、そんなことないですよ!?」
「全部分かってるぞ。お前分かりやすいんだよ」
師匠は苦笑しつつ、目を伏せる。
「……今は、何も聞かないでくれないか」
「!」
「全てが終わったら、俺から話す。俺の生前のことをな。……だから今は、お前のただの師匠でいさせてくれ」
生前。師匠は元は人間で、死んでから悪魔になったんだってノブナガ君が言ってたっけ。
じゃあママとパパを知っているのは生前で何かあったからってこと? 気になる……。
「……し、師匠がどんな生前を持ってたって私は引いたりしませんよ!」
「いや、なんというか……お前に話すには色々と勇気がいるんだよ。胸を張ってお前の師匠だと言えなくなるっていうかな。お前の師匠であることは俺にとって大きな誇りだし、なによりお前とは今の関係を保っていたい。……駄目か、エマ」
ますます訳が分からない。でも、師匠にそう言われたら私は頷くしかないのだ。
師匠が「ありがとな」と小さく呟いた。
……仕方ない。
師匠の謎を彼自身が解いてくれるその時はルシファーを倒した後のお楽しみにとっておくことにしよう。
***
「──ない」
朝、目を覚まして開口一番に私はそう言った。
未だに寝ぼけているリュカが「何が?」と欠伸交じりに聞いてくる。
私はすっかり顔が青ざめて目が覚めてしまっていた。
ないのだ。どこにも。
──ミカ君が、どこにもいないのだ!!!
朝目を覚ましたらいつも私の傍で眠ってるはずなのに!
そう言うと、リュカは頭を掻いて眉を顰めた。
「なんだよソレ。どっか探せば見つかるって」
「いないよ。私、ミカエル様の加護を体内に宿しているから分かるの! 同じ加護のミカ君の存在が、近くに感じられないの!」
「なんだって?」
皆で洞窟中を探したけれど、本当にミカ君はいなかった。
どうしたものかと頭を捻っていれば、ベックスさんが大きな声を上げる。
「おい! アルもいないぞ!? アルはどうした!?」
「!?」
その時私の頭によぎったのは先日のアル君の言葉だ。
──『……勇者には、どうやってなれるんだ?』
──『俺が! 絶対にあいつを倒さないといけないんだ!!』
──『俺に聖剣をくれよ!!』
「──、まさか、ミカ君と一緒にベルフェゴールのところへ……、」
「!?」
ベックスさんが頬に爪を立て、驚愕する。
私はすぐに外にいた寝起きのエルピスに跨って、ベルフェゴールの寝床があるであろう方向を睨んだ。
すぐに助けにいくからね! アル君!!
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