とある怠惰な独り言


 あいつは言った。俺様は人間が本当は好きなのだと。

 俺様が昔から人間にちょっかいを出し続けているのはやつらが生きる事を諦めないことを心のどこかで願っているからなのだと。

 あいつがいない今、改めてその言葉を思い出す。

 

 ──いいや、違うね。

 俺様は、人間が嫌いだ。嫌いで嫌いで堪らない。

 俺様が得られない怠惰という贅沢を簡単に貪ることのできるくせに生きようと足掻くあいつらが大嫌いだ。

 

 人間に技術を与えれば、ヤツらはたちまちその技術を利用して道具を作り、怠惰を貪る楽をする

 人間に草を与えれば、ヤツらはその草をこねくり回して薬にし、怠惰を貪る金を得る

 人間に鉄を与えれば、ヤツらはそれを武器に加工して、怠惰を貪る身を守る


 ……は? 怠惰の意味が全然違うのではないかだって?

 うるせぇ。俺様が怠惰だと思ったらそれは怠惰なんだよ!

 なんせ、俺様は怠惰の悪魔だからな。当然だろ。

 

 まぁアレだアレ。簡単にまとめると。

 俺様は人間が嫌いなのだ。あいつらの生き方は俺様の在り方に相反するものだからな。

 

 ルシファーが復活した今、この人間まみれの世界はどんどん俺様好みの世界になっていく。

 ルシファーは気に食わねぇが、あいつがいれば人間は減るからな。

 唯一俺様を慕ってくれたあいつはもういねぇのは、正直寂しいけどよ。

 あぁ、どうも調子が狂う。あいつの人間臭さがちっと移っちまったのかね。

 

 まぁいいさ。ひとまず今日も大嫌いな人間に嫌がらせをしてやろう。

 ヤツらがその瞳の光を失い、己の未来を怠惰する諦めるその時まで──。




***




「ねぇ、冥界って本当に死ななくてもいけるの?」


 私達はアトランシータを後にして、地上を彷徨っていたエルピスと合流し、冥界を目指すことになった。

 冥界は随分と大陸の北にあるようで、少しだけ長丁場になりそうだ。

 ミカ君が私の髪の毛に必死にしがみつきながら私の質問に答えてくれる。


「だから、心配しなくても大丈夫だとも! ちゃんと入り口があるんだって! 信じて!」

「だって信じられなくってさ。冥界だよ? あの世だよ?」

「そりゃ、簡単には見つからないような場所にあるから……」


 私を乗せてくれているエルピスはもう数時間は休まずに飛んでくれているというのにハイテンションだ。

 アトランシータにいる間、一人で待たせちゃったからなぁ。寂しかったんだろう。

 私はエルピスの首を撫でる。

 一方でリュカの背に乗るノブナガ君は未だにリュカと言い争いをしていた。

 あの二人もなんであんなに言い争う体力あるのかが不思議だ。


「ちょっとお二人とも! そろそろ暗くなってきそうだし、一旦降りない?」

「! あ、うん! 了解だよエマちゃん! ほらリュカ、さっさと降りろよな」

「はぁ!? お前人の背に乗せてもらってなんだその態度! ふてぶてしい奴め!」


 ぎゃあぎゃあと騒がしい二人にやれやれと肩を竦めながら地上を見下ろす。

 するとミカ君の耳がピンと立った。


「──むむっ! 嫌な気配だ。エマ、近くに悪魔がいるかも!!」

「えぇ!?」


 私は目を凝らす。

 すると目についた草原で黒いモノが動いていることに気づいた。

 あれは──。


「──大変! 男の子が大きな狼に襲われてる!!」

「なんだって!?」


 リュカとノブナガ君の顔つきが変わる。

 私はエルピスに合図をした。

 エルピスはそんな私に頷くと素早く急降下。


 ──早く助けてあげないと!!

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