毒に犯された
「──ノブナガ!」
リュカの叫び声がする。
私は思わず集中を解いて、下を見降ろした。
ノブナガ君が倒れている。怒り狂ったヒュドラの前で。
ひゅっと息を呑みこんでしまう。
「リュカ、早くノブナガ君を!」
「いや、アモンが時間を稼いでくれるだろ! 早くしろ!」
「でもノブナガ君が!」
「いいから早くしろ!
リュカの言葉に疑問を抱いた。
私はそこでリュカの身体中に不思議な斑点が浮かんでいることに気づく。
この斑点、薬草学の本で見たことがある。
毒に汚染された身体に、この斑点とよく似たモノが皮膚に現れるのだ。
つまり、リュカは──。
「早く、しろ!」
「リュカ……なんで、なんで言ってくれなかったの……」
二人とも、いつの間にか毒のダメージを受けてたんだ!
それなのに平気な顔で私の作戦に頷いて──。
リュカがこれなら今倒れているノブナガ君はもっと酷いんじゃ……。
私は不規則になる呼吸をそのままに、石像に集中した。
死なないで、死なないで、死なないで!!
その一心だった。
私が怖いと弱音を漏らした時、リュカとノブナガ君はそんな私を不安にさせないために真っ先にヒュドラに立ち向かってくれた。
もしかしたら二人はこの広間に入った瞬間に、毒にやられていたかもしれないのに……。
私はそれを知らずに、なんであんなことを……。
悔しい。
魔法陣越しに石像に私の魔力を浸透させる。
そして石像全体に魔力がようやく行き渡ったのを感じて──。
私は目を開いた。
「動け!! 動いて!! そしてヒュドラを、あの怪物を突き刺せ!!」
私が石像にかけたのは土魔法だ。
土魔法は主に土や石などからゴーレムという人形を生み出す魔法のことを指す。
つまり私はこの石像は私のゴーレムにすることを思いついたのだ。
魔法陣を額に描いて、私の魔力を十分に分け与えることで私の言葉に反応するゴーレムになる。
石像の男が動き出す。
そしてヒュドラを睨みつけると、その逞しい石の腕を己の身体に引き寄せ──。
先の鋭い石槍をヒュドラの頭部達が結合し膨張した部分を突き刺したのだ。
私は思わず腕を振り上げた。
「やった! やったよ、リュカ! 私、あの大きな石像をゴーレムに、」
「…………あぁ、」
瞬間、視界が回る。
いつの間にかリュカが人間の姿に戻っていた。
リュカは私の身体を自分の胸の中に収めると、そのまま落下していく。
「リュカ、リュカ!? しっかりして、お願い……」
「…………」
返事はない。
私はすぐに盾魔法を発動させ、現れた盾に手をかけることで落下の速度を落とした。
腕に痛みが走ったけれど今はそんなことを気にしている場合ではない!
リュカの重みに耐えられず地面に落ちたけれどなんとかダメージを抑えることには成功しただろう。
倒れたリュカの顔を叩く。
しかしやはりリアクションはない。
世界がぐにゃりと歪んでいく。
「リュカ、リュカ……お願い、目を覚まして……」
すぐ傍で足音がして、アモンさんがノブナガ君を抱えてこちらに来ていた。
そして私の顔を見て、目を見開く。
「アモンさん、リュカが、ノブナガ君も、」
「馬鹿野郎!
──え?
私はいつの間にか、天井を見ていた。
先ほどまで私のゴーレムだった彼はここに入ってきた時のように私達を睨んでいる。
あれ、目が、見えな──。
「おい、おい!!」
アモンさんが私の顔を覗きこんで必死に叫んでいる。
私は全身が勝手に痙攣している恐怖で心がいっぱいになった。
「──ぃ、おい、死ぬな! 死なないでくれエマ! お前が死んだら、俺は、俺は……エレナにどんな顔をして会いに行けばいい──」
──エレナ?
──どうして……アモンさんがママの名前を?
──もしかしてアモンさんって……ママの知り合いなの?
私はそんな疑問を最後に意識を失った──。
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