作戦
こんな化け物相手にどうしろっていうの。
私は一歩後ずさってしまいそうになったが、それでは駄目だと踏みとどまる。
「首を切っても逆効果って……それじゃああいつをどうやって倒せば……」
でもこれは試練だ。ならば必ず答えがあるはず。
私は落ち着いて広間を見渡した。答え、こたえ、コタエ……。
そこで私はふと上を見上げた。
そういえばあの天井からこちらを睨んでいる石像には違和感を覚える。
どうして天井に石像を? 普通反対じゃない?
──そう思ったところで。
「あっ、」
私は思わず声を上げた。皆が私に注目する。
「どうしたの?」
「いい事思いついたの。でもこの作戦、ちょっと時間かかるんだよね。あのヒュドラの首をどうにかしたいけど……切ったら増えるからなぁ」
「ヒュドラの首は俺とノブナガに任せろ」
そう言ったのはアモンさんだ。アモンさんはヒュドラを冷静に見据えていた。
「ひとまずエマ。お前の作戦とやらを教えてくれ。俺の考えをどう生かすか考案する」
「は、はい。えっと、私の作戦というのは──」
私は三人に思いついた作戦の内容を話す。
リュカとノブナガ君は感心したように天井を見上げた。
「……本当にそれが可能なのか?」
「う、うん。出来る。私の得意分野だし、パパの血も引いてるしね。というか、やってみせる!」
「じゃあヒュドラの方は俺とアモンに任せて! エマちゃんとリュカは天井を頼んだ」
「うん!」
ノブナガ君は腰の鞘から剣を引き抜いた。
いや、剣じゃない……これは……パパの側近であるイゾウさんの武器?
確か、カタナとか言っていたような。
「鎌鼬……力を借りるぞ」
ノブナガ君が刀にそう呟いている。
その間に私は竜と化したリュカの背中に乗った。
「ノブナガ君! ヒュドラは頼んだよ!」
「──おう!」
アモンさんがノブナガ君の体内に入り込む。
そして炎の気配に身を包んだノブナガ君はぐぐっと足を曲げて一気に跳んだ。
壁を伝って、素早く走っていく。
思わず呆気にとられた。
「す、凄い」
「よそ見してる場合じゃねぇぞエマ! ほら、この石像だろ!?」
リュカの言葉に我に返ると、目の前に要である槍を持った男の像。
こんなに大きな石像を動かしたことはないけれど……やるしかない!
指先に魔力を集中させながら、私は男の額に魔法陣を描き始めた。
***
エマが石像に魔法をかけている間、信長はヒュドラの頭部達の気を自分に逸らせるように誘導しつつ、その首に狙いを定めていた。
この広間の壁がごつごつと岩が飛び出している構造で足場にしやすいことは幸運だった。
とはいっても、普通ならばこんな壁を常人であるノブナガが渡れるはずもなく。
それが可能なのはアモンにより身体強化魔法のおかげである。
しかしこの身体強化魔法はそう長くは続かない。身体に無理をさせてしまうからだ。
ただでさえ
(ノブナガ、もう限界だろ! さっさとしろ!)
「わ、分かってる、でも! うわっ!」
ヒュドラの頭の一つが信長を食おうと飛び出してきた。
信長は反射的にその頭を避け、足場にし、岩に手をかける。
そしてヒュドラの頭がもぞもぞと壁から抜け出そうともがいている隙に──刀を握りしめた。
「──今だ!」
親友と同じ名である刀を振り上げる。
そして一直線に、静かに落として──。
ヒュドラの体液を炎が蒸発させる音がした。
ヒュドラの首を、切った。
それだけでは終わらない。早くしなければヤツの首がさらに増えてしまう。
そこで信長に憑依していたアモンが信長の身体を操り、ヒュドラの首の切り口に火を噴いた。
アモンの炎が切り口全体に広がり、ヒュドラの苦痛の雄叫びが残りの九つの頭から飛び出す。
アモンはしばらくその様子を見てニヤリと口角を上げる。
(やはりそうか。切った表面を焼けば、こいつらは再生できなくなるんだ)
「! な、なるほど……じゃあ、残りの首もさっさと切って──」
──しかしだ。
突然、信長の身体が動かなくなった。
石のように固まり、そのまま数メートルの高さから地面に落下してしまう。
リュカが信長の名前を叫んだ。
「──? ──??」
信長は己の手の平を見つめることしかできなかった。
その手には──不思議な斑点が浮かんでいた。
アモンが自分を呼んでいる。憑依が解け、彼が必死にこちらに向かって何か叫んでいる。
だが信長は唇を動かす力もなかった。
ただ霞む視界を、受け入れるしかなかった。
──あぁ、限界か。
***
信長が持っている刀、鎌鼬っていう刀で鎌鼬からの餞別っていう設定だったんですが……前日譚でそのシーンを書き忘れていたことに今気づきました。
いつか加筆修正します。
次の更新は明日の1時に予約投稿してます。
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