加護の化身
「なぁ、外から見たラファエル神殿はこんなに広そうに見えたか?」
「多分空間魔法がかけられているんだと思う。それにしても先が見えないね」
ラファエル様の神殿は意外にも怪しげな灯りが揺らめているだけの魔物も何もいない一本道だった。
生ぬるい風が前方からやってきてエレナ達の頬を撫でる。
足音の他にシャーシャーという獣の威嚇の声が聞こえてくるような気がした。
「──きゃああっ!?!?」
エレナが飛び跳ねる。思わず近くに居たノブナガに抱き付いた。
ノブナガはその勢いに押されて尻餅をつく。
「え、え、え、エマちゃん!?!? そんな、大胆な! 抱擁はその、お、おおお付き合いしてからじゃないと……」
「ちょっとちょっと!! わ、わわ私の足になんかいる!!」
「へ? 足?」
ノブナガが恐る恐るエマの足を見る。
すると確かにエマの足に何か巻き付いていたのだ。そっと手を伸ばしてソレを掴んでみる。
「──蛇?」
エマの足に巻き付いていたのはノブナガの言う通り、薄緑色の蛇だった。
よく見るとこの一本道の壁のあちこちに穴が開いており、蛇の頭がチラチラとこちらを覗いている。
エマはノブナガに謝ると蛇で驚いてしまったのが恥ずかしかったようで、誤魔化す様に先を進んだ。
ノブナガは未だに心臓が暴れているのを確認するように胸を抑える。
そんなノブナガを嘲笑うのは──。
「よう、童貞君」
「! アモン、出てきたのか」
ノブナガの腕輪からいつの間にか顕現したアモンだった。
アモンはノブナガに耳打ちする。
「お前よ、エマに触れる度にいちいち動揺してたらどうしようもないだろうが」
「で、でも、女の子に慣れてないって言っただろ? それにエマちゃんいい匂いがして……瞳の色、凄く綺麗だし……え、エマちゃんに触れたりなんかしたら、あ、頭がエマちゃんでいっぱいになっちゃうんだ!」
アモンは顔を赤らめてそう言葉を紡ぐノブナガにため息を吐いた。
そこでノブナガは視線を感じ、そちらを見る。
視線の元はエマの幼馴染であるリュカだった。ノブナガはその視線から敵意を感じ取る。
「……やっぱりお前、エマの事狙ってるな」
「え、」
リュカは威嚇するように歯を見せてきた。
「一応釘刺しておくぞ。エマには既に想い人がいるからな」
「え、えぇ!? だ、誰なの? も、もしかして君?」
「! い、今は違う。今は、俺の叔父さんだけど……。でもいつかはあいつは俺の番になる。お前の出る幕なんかねーからな!」
ノブナガは取りつく島もないリュカにどうしようとアモンに助けを求める。
アモンは口パクで「た・た・か・え」と返してきた。
──た、戦えってなんだよ!? しかもなんでちょっと面白そうなんだよアモン!?
しかしリュカの宣戦布告にノブナガが言葉を返すことはできなかった。
肝心の嵐の中心であるエマがこちらを振り向いたからだ。
「ねぇ、思ったんだけどさ、神殿の入り口にも蛇の頭があったよね」
「! あぁ、ティンパヌムのことか。確かにあったな」
「もしかしてラファエル様の試練って蛇に関連する試練なのかもなーって思って。巨大な蛇を退治しろ~とか」
そこでエマはリュカ、ノブナガ、アモンを順番に見てふと考え込む。
「エマちゃん?」
「リュカは竜に変身できるし、ノブナガ君はアモンさんがいるし……うーん」
「おいエマ。どうしたんだよ」
「あのさ。私ってミカエル様に認められてるってことは……一応ミカエル様の加護は宿ってるんだよね? それにしては全然変わってないような気がしてさ。それに私の得意な土魔法はこんな神殿の中じゃ使えないよ。大きな岩とか土がないと。壁をゴーレムにすることも出来るかもしれないけどこの神殿が崩れたらいけないし」
私、足手まといにならないのかな。
エマが俯いてそう不安そうに呟いた。瞬間、ノブナガとリュカの声が重なる。
「「そ、そんなわけない(だろ)!!」」
二人の声にエマは顔を上げる。
リュカとノブナガはお互いを牽制するように睨み合った。
アモンはやれやれとエマの肩に手を置く。
「まぁそういうことだ。お前を重荷に思うヤツはいないだろ。安心して進めばいい」
「! アモンさん! はい、ありがとうございます!」
「それにミカエルの加護の事だが──おそらく加護がまだ身体に馴染んでいないんだろう。あのエセ大天使野郎が何もしていないはずはないしな」
「──エセ大天使野郎で悪かったね!」
「!?」
その時、やけに甲高い声が四人の空気を一気に変えた。
声の主を探すが、見当たらない。すると突然エマが顔を赤らめて擽ったそうな声を上げる。
見ればエマの胸元から翼の生えた真っ白い子猫が現れたのだ。
「なっ、なにこの子!?」
「やっほー! 不安にさせてごめんねエマ。アモンの言う通り、君の身体に馴染むのに少し時間かかっちゃったんだ。僕は大天使ミカエルの欠片であり、君に宿った加護。気軽にミカ君とでも呼びたまえ! あ、ちなみに猫の姿なのはサービスだよ。この姿だと癒されるだろう? って、あーっ!?」
アモンがエマの胸元から顔を出す加護の化身をひっつかんでエマから離す。
「……てめぇな、もう少し出てくるところ考えるべきだったな。猫ってのは焼いたら食えそうだと思わないか?」
「あー! ご、ごめんなさい! 女の子なんだからもう少し気を遣うべきだったかな~あはは……」
「あ、アモンさん! 私は大丈夫ですから……」
「! ちっ。お前がそう言うなら何も言えないだろ」
アモンは渋々エマに加護の化身を返した。
加護の化身はやれやれと額の汗を拭うと不思議そうに化身を見つめるエマにウインクする。
「やぁエマ。僕は今から君の武器として働く者だ。よろしくね」
「──武器?」
エマが加護の化身の頬をツンツンとつつきながら首を傾げた。
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