道
「……っ、れろ、」
「…………っ!!」
……。……?
なんだか騒がしい。私は寝起きの意識を徐々に覚醒させていく。
「もう、うるさいよ……どうしたの?」
「おやおや。もう起きたのかいエマ」
「?」
聞き慣れない声。
目を開ければ私の知らない男の人の顔が目の前に。思わず息をひゅっと飲み込んだ。
「きゃ、きゃあああああああああああああああっ!!」
「ぶふっ」
その人の顔を押しのけて、四つん這いになって逃げる。
誰!? 誰だれだれだれだれ!?
私は慌てて一番私の傍にいたアモンさんの背中に隠れた。
「お、おい! エマ、」
「アモンさん!! 誰ですかこの不審者!!!! 助けて!!」
「傷つくなぁエマ。これでも私、一応大天使だよ?」
知らない男の人はニコニコしながら私に手を振る。
アモンさんの上着をぎゅっと掴んでその人を睨んだ。
アモンさんは少し戸惑っていたようだけど、私から離れるようなことはしないでくれた。
「おいエマ! その変な悪魔から離れろ! こっちこいこっち!!」
「! リュカ。目が覚めたの?」
「アモン! エマちゃんから離れてよ!! ずるいぞお前!!」
「……めんどくせぇガキ共だ」
「ふふふ、そう言いながらも満更でもないんでしょサラマ……じゃなかった、アモン?」
男の人はアモンさんを揶揄うような視線を向ける。
アモンさんは「知るか」と舌打ちをした。
私はふと彼の背後から、突然現れた不審者を観察する。
あれ、この人どこかで見たことあるような……。
「あ! いつもパパ達の会議の時にいる胡散臭い人!」
そうだ! この人、ミカエル様だ!
あのパパでさえ彼を様つけて呼ぶので私もそうしていたのだけど……この人今自分のこと大天使っていった? この胡散臭い人が? あの本によく出てくる大天使ミカエル様?
「アモンさん、彼と知り合いのようですが……本当にあの人はその、」
「あぁ。信じたくない気持ちは分かるが、ヤツこそ本物の大天使ミカエルその人だ」
アモンさんが言うのならば本当なのだろう。
彼は私に嘘はつかない。なんとなくそう感じたのだ。
ノブナガ君がアモンさんを肘でどつきながらも、ミカエル様に警戒している。
「よく分からないけど、なんか偉い人なんですよね? 何か用でしょうか」
「まぁまぁそんなに敵意むき出しにしないで。ほら、座ってお話しよう」
ほ、本当に大丈夫かなぁ。
するとリュカがすっかり消火している薪の前に座って、隣をぽんぽんと叩いた。
「リュカ?」
「アムドゥキアス叔父さんが言っていただろ。ミカエル様が俺達を導いてくれるって」
「! そ、そうだった。確かに」
私はリュカの隣に座る。そうするとノブナガ君とアモンさんも並んで尻を落ち着かせた。
「……それで、今後俺達はどうすればいいんですか」
「リュカ、君は賢い子だね。そう、僕はある提案をしにきたんだ。依頼、とも言ってもいい」
「提案?」
「今回シュトラール王国はほぼ陥落したと言ってもいい。人間という人間が石化され、周辺国家だって時間の問題だ。それにルシファーが指示を送っているのかしらないけど今まで身を潜めていた魔物や悪魔達が一斉に湧いて出てきている」
「ルシファーって、あの深緑色の髪の男の人!」
「そう。仮の姿だけどね。今のルシファーは風の勇者だったシルフという青年の死体に憑依しているようなものなんだ」
風の勇者……つまりパパやウィンディーネ女王と一緒の……。
そしてあと一人……確か、パパの弟のサラマンダー叔父さんも勇者だってパパが言ってた。
少しだけ泣きそうな顔で叔父さんの事を話すパパの顔は今でも忘れられない。
叔父さんは随分前に亡くなったと聞いている。
「ノームも石化され、ウィンディーネも自国を守るので精いっぱいだろう。ルシファーを封印出来るのは僕らの加護を授かった勇者だけ。僕らの鎖をヤツに突き刺すには新しい器を作る必要があるだろう」
そこでミカエル様が何故か私を見る。
私は首を傾げた。
「え? 私?」
「そう! まさに君だよエマ。君には勇者の血が流れているし、両親に似て魂だって凄く純粋なものだ。君ならきっと僕らの加護を包み込む器になれる」
「そん、な事言われても……」
実感がわかない。
要するに私が勇者になるってこと? そんなこと、本当に出来るのだろうか。
するとミカエル様が話はまだ終わらないとばかりに強い口調で語り掛けてくる。
「でもね、エマ。これだけは言っておくよ。ルシファーを封印するには僕、ガブリエル、ウリエル、ラファエルの四人分の加護を君に授けなければいけないんだ。僕は君を既に認めているけれど、他の大天使がそうなるとは限らない。試練を受けてほしいんだ。ガブリエル、ウリエル、ラファエルの試練を……」
「試練……」
「うん。試練を乗り越える度に君の器に彼らの加護が宿る。それが全て溜まれば後はルシファーにその加護をぶつけるだけだ。分かるかい?」
理解はできるけれど……。
リュカとノブナガ君の顔が怖いものになっていく。
「……その試練ってどれくらい危険なんですか?」
「そうですよ。エマちゃん一人を危険にさらすわけにはいかない」
「勿論、大天使の試練だしリスクが低いわけがない。だからこそエマを支える君達がいる。そしてアモンも、ね」
「…………、」
ミカエル様は私に手を伸ばした。
「エマ、君はどうする? 僕にはこれ以外道はないと思うけどね。僕らの加護がなければ、ルシファーを封印することなんてできっこないんだから」
「…………、私がルシファーを封印すればパパやママや皆を助けることが出来るんですね?」
私の震える声にミカエル様が微笑して力強く頷く。
私は両腕の指に力を入れた。
……どうやら私の道は今、目の前に一本だけしかないようだ。
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