絶望は突然に
エマとエレナは絶句した。
シュトラール城に慌てて帰ってみれば従者達も、人間達全てが石像へと変貌していたのだ。
玉座の間に行けば、様子がおかしいと戻ってきたのだろうノームとイゾウも……。
エマがそんな父親を見上げ、声を濡らす。
「パパ?」
「ノーム……!!」
エレナは左手で口を抑え、今にも泣き出しそうになった。
しかし自分の腕を掴む娘になんとか我に返り、涙をせき止める。
「見て、ママ。ヘリオスおじいちゃんもフォルトゥナも石になってる。どうなってるの!?」
「……。落ち着きなさいエマ。今すぐエルピスに乗ってテネブリスに向かいなさい!」
「え、ママは?」
「私は大丈夫だから。シャドーさんもいるし。ね? エマ、ママの言う事聞けるでしょ?」
エマは戸惑った。ここで離れたらエレナも石になってしまうような気がしたのだ。
するとここで、玉座の間の扉が開かれる。
「──それはどうかな? テネブリスもここも、同じだと思うよ?」
「! ルシファー……!!」
エレナが憎しみを込めて叫んだ。
同時にエマを自分の背に隠す。
「ルシファー、シュトラールに何をしたの!! 元に戻しなさい!!」
「やぁエレナ。綺麗になったね」
「エマ!! 逃げなさい、早く!!」
「っ、は、はい!」
エレナの怒声にエマはすぐに反応した。
ルシファーがいる入り口とは別の出入り口から玉座の間を飛び出して行く。
「おっと、逃がさないよ」
ルシファーが何かを小言で唱える。
エレナはエマが心配で堪らなかったが、今は目の前の
「この国を支配する気?」
「うん。君達には色々としてやられちゃったしね。ひとまず先に潰しておくのがいいかなって。あぁ安心して。君は特別だよエレナ。僕の子だもん。君を石にしたりしない。
「! あなた……」
「それに君が苦しそうにしている顔が見たいしね。この先、君の娘がどうなるのか見守っておこうじゃないか」
「!!」
エレナは、唇を強く噛みしめ──自分の腹を撫でた。
***
「は、はぁ、はっ、なに、あの化け物!!」
エマは城中を走っていた。
そんなエマを追いかけているのは──。
「ケケケケケケケ!! うまソウ!! ニンゲン、コドモ!!!!」
「い、いやぁあぁッ!!」
かつてベルゼブブと呼ばれ、エレナと相対したこともある蜘蛛の悪魔。
エマは気が動転していて、必死に逃げることしかできない。
──駄目だ、ここには土がないからゴーレムさんを召喚するのも無理!!
──そもそもこんな精神状態じゃ魔法どころじゃない!
──一体、どうすれば……。
そしてエマの足がもつれる。転んだ。
エマは心臓が止まるかと思った。
必死に四つん這いで逃げようとするが──左足を掴まれ、引きずられる。
「ハハハ、いい、ニオイ、だナぁ」
「い、いやだ、嫌だ!! 嫌だぁ!!! 助けて、誰か、お願い……!!」
暴れるエマにベルゼブブの不気味な笑みが深いものになっていく。
その牙がエマの皮膚に迫っていく!
「──エマ様!!」
エマは瞬間、足に熱を感じた。
ベルゼブブの悲鳴が聞こえる。ベルゼブブの足が燃えていたのだ。
ポカンとしていればすぐに身体が宙を浮いた。
見ればアムドゥキアスがエマの身体を抱いていたのだ。
「アム!? どうしてここに!?」
「テネブリスも陥落したことを伝えに来たのです! 魔王様は私や部下たちを庇って石像の呪いにかかってしまいました!」
「あのおじいちゃんが!? じゃあ、どうすれば、」
「落ち着いてくださいエマ様。……リュカ!!」
アムドゥキアスの後ろにはリュカがいた。
リュカの目が少しだけ濡れている事に気づく。
「リュカ、まさか、アスモデウスさんとリュカのお母さんも……」
「あぁ。お前もか?」
エマは頷いた。
アムドゥキアスは落ち着いたエマを地面に下ろすと、リュカの方へ背中を押す。
「エマ様、リュカ。私はこの悪魔の時間稼ぎをします。早くここを離れろ。おそらくすぐにでもミカエル様がお前達を導いてくれるはずです」
「えぇ、アムも一緒に逃げようよ!」
「駄目ですエマ様。私はもう、動けません!」
「!」
よく見るとアムドゥキアスの両足が石に変わっていた。
だんだんアムドゥキアスもノーム達のように全身が石化していくのだろう。
エマは涙を流した。
「どうして、どうしてこんなことに?」
「十三歳の貴女には酷かもしれませんが、見捨てる勇気を持ってください。リュカ、エマ様を連れて早く隠れろ!!」
「わ、分かったよ叔父さん! 死ぬんじゃねぇぞ!!」
リュカがエマの手を握って走る。
エマは泣き叫びながらも、必死にリュカに付いて行った……。
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