【三章前日譚】ヒノクニのノブナガ④

 

 森の木々がどちらの方に行けばいいのか教えてくれる。

 妖怪達の悲鳴も聞こえた。

 歯を食いしばる。


「の、ぶなが……」

「! 傘お化け君!」


 酷い。倒れていた傘お化け君の傘地は穴だらけだった。

 まるで誰かに弄ばれたような……。

 

「にげ、るでごわ……まだ、やつら、ちかく、に……」

「……っ」


 傘お化け君は気絶したのか動かなくなった。

 ゆっくり地面に彼の身体を置いて、俺はまた走った。


 また悲鳴。今度は……河童君の悲鳴だ!

 ということは。


「──鎌鼬かまいたち!!」


 ようやく川に出た。

 そしてその岩場で──。


「あぁ、やめ、やめて、死んじゃう、死んじゃうよ、」

「やめろ! てめぇら、ただじゃすまないからなっ!」


 河童君の頭部の皿が燃やされていた。

 河童君の皿は心臓も同然だというのに!

 燃やしている奴らは六人の盗賊達のようだ。

 こいつらが仙桃を盗んで仲間を弄んでいる人間達!!

 俺は走っている途中で見つけた太い棒を構える。


 ──叫びながら、盗賊達に襲い掛かった。


「っ!? なんだこのガキ!」

「! 信長!」


 鎌鼬が俺の名を呼ぶ。俺は無我夢中で棒を振り回した。

 しかしそれだけで六人の大人に敵うはずもなく。

 すぐに殴り変えされて、今度は俺が標的になった。

 四方八方から蹴られる。棒を奪われて、俺自身が殴られる。


「信長! 信長っ!!」


 鎌鼬は身体中に御札を貼られて動けないでいるようだ。

 身体中が焼けるように痛い。あぁ、意識が……。

 男達の笑い声が脳を支配する。


 ……畜生。

 畜生畜生畜生畜生!! 俺が、弱いから……。

 あいつらを、俺の家族を虐げたあいつらを、殴る事も出来ないなんて──!!


 額に血が流れる。力の失った手が、分裂して見える。

 その手を誰かが思い切り踏んだ。思わず叫んでしまう。


「ははは、この森にゃあ、人間のガキが妖怪と住んでるっつーのは本当だったみてぇだな」

「どうする兄貴、確か小針おはりの殿様は男に興奮するんじゃなかったか? このガキ、顔はいいぜ」

「あぁ。一応掛け合ってみるか」


 男達の会話はもう聞こえない。

 河童君は、鎌鼬は……? 瞼が重い。

 

 あぁ、もう──。


「おい」

「!」


 身体がふわっと浮いた。

 気付けば誰かに横抱きされている。

 なんとか目を開ければ、俺を抱いているのは悪魔君のようだった。


「あ、くま、くん」

「あの緑色の変なヤツは川に投げておいたがそれでよかったのか?」


 悪魔君の言っているのはきっと河童君の事だろう。

 俺は弱弱しく頷いた。

 盗賊達は突然現れた悪魔君に驚いている。


「な、なんだてめぇ! いきなり現れやがって!! てめぇも物の怪の類か!?」

「……どうするガキ。俺には何も出来ねぇぞ」

「お、俺は……」


 悪魔君の言いたいことは分かってる。

 俺は自分の情けないほどに生気のない拳を見つめた。


「……俺は、今だけでもいいから、力が欲しい」

「…………」

「そうだ、力だ。頼むよ、悪魔君。あいつらを……あいつらを思いっ切り殴ることの出来る力が欲しい……!!」

「そうか」


 悪魔君は息を吐いた。

 そして、にっと不気味に口角を上げる。



「──その願い、受け取ったぞ主。俺の名はサラマンダー! この真名、お前の魂に刻むといい!」



***

後日書き加えるかも。

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