【三章前日譚】ヒノクニのノブナガ⑤


 悪魔君の真名を知った瞬間、悪魔君が消えた。地面に投げ出される。同時に身体が熱くなった。

 

「……悪魔、くん?」

(俺が直接あいつらを追い払ってやってもいいが、お前の願いはお前があいつらを思い切り殴る力を与えることだ。故に俺はお前に憑依した。お前の身体、借りるぞ)

「! 声が……」


 脳みそに直接話しかけられているようだ。とりあえず悪魔君は俺の中にいるらしい。

 凄い、悪魔君ってこういうことも出来るんだ!

 

「な、なんだ!? 今人間が消えやがったぞ!?」

「気を付けろ! やっぱり物の怪の類だ!」


 盗賊達が俺を取り囲む。

 すると俺の身体が勝手に動き出した。

 胸の前で両腕を交差させ、ぐっと力を籠めると、一気に身体中から炎が放出される。

 俺の周りにいた男達に炎が襲い掛かった。


「うわぁ!!? なんだこのガキャア!」

「おい札は、札はどこだ!?」

「あの白いガキに使ったので全部だ馬鹿野郎!!」


(ノブナガ、奴らに息を吹きかけてみろ)

「えぇ、息? わ、分かった」


 俺は言われるまま唇を尖らせて息を吹く。

 すると──俺の息吹に炎が乗って、炎の竜へと形を変える──!!

 竜はくねくねと宙を舞うと、男達を認識後すぐに牙を向けた。


「う、うわぁぁぁぁ!!」

「ひぃっ、わ、悪かった、悪かったよぉっ!」


 竜にお尻を突かれながら、俺から逃げようとしていた盗賊達がこっちにやってくる。

 俺の拳が勝手に炎に包まれた。


(あとは分かるな? あの馬鹿どもをお前自身が殴ってやるんだ)

「! うん。ありがとう悪魔君!」


 俺が拳を握りしめ、近づいてくる盗賊達を睨みつける。

 盗賊達は俺の燃える拳を見て、さらに顔を青くした。


「お、おい、おい!! 仙桃は返す、返すよぉ!! 話せばわかる! 俺にだって小さいガキがいてよぉ、そいつの為に仙桃を、」

「子供の為に物を盗むような人間が、俺の家族や仲間を傷つけるとは到底思えないけどね。その桃は神様の落とし物なんだ。君らみたいな酷い人間に渡していいモノじゃない。返してもらうよ」

「へ、へへぇ……じゃあ、返したら、その、命は……」

「勿論命を奪うつもりはないさ。俺は君らみたいな外道じゃないからね」


 だけど。

 俺は言葉を続ける。


「──歯を食いしばれ。俺の怒りを受け入れろ」

「は……?」


 俺はその瞬間、順に男達の頬を全力で殴った。

 男達は俺の拳の勢いで川に投げ出され──河童君達の群れにつつかれたり噛まれたりしながら流れていく。

 身体の力が一気に抜けて、その場で尻をつく。

 目の前に、俺の中から抜け出した悪魔君が立っていた。


「ありがとう」

「力が入らないだろう。初めての憑依だからな」

「うん。でも、凄い清々しいよ。君のおかげだ悪魔君」

「ったく、真名教えたんだから悪魔君はもうやめろ。っつっても、真名で呼ばれるのも色々と都合が悪い。俺の事はこれからアモンと呼べ。一応、俺の悪魔名だ」

「! 了解。アモン君だね」


 手を差し出されて、それをしっかり握った。

 悪魔君──アモン君は俺を支えると、少しだけ真面目な顔になる。


「……お前は、」

「?」

「異形の者達に囲まれたとしても外見ではなくその本質を見抜き、その者達を守ろうとするんだな」

「アモン君? 何言ってるんだ。 そんなの当たり前だろ? だって皆、俺の大切な家族だからな!」

「……。……ふふ、ノブナガ。ミカエルがどうして俺の主にお前を選んだのか今分かった。お前の境遇も、お前の心も、あいつに似ているんだ」


 アモン君の声はよく聞こえなかった。

 でもきっと俺は知らなくてもいいことなんだと彼の表情から悟った。

 俺はにっこりする。


「さて、相棒! 冒険の準備をしよう!」

「は?」

「なに間抜けな顔しているんだよ。君の想い人を助けに行くんだろ? えっと、君の名前がサラマンダーだから……ForS、FromE……うん、やっぱりこの腕輪は君が想い人にもらったものじゃないか!」

「!」


 アモン君の頬が瞬時に真っ赤に染まる。

 嬉しそうだけど同時に恥ずかしそうな複雑な表情だ。

 アモン君にこんな表情をさせるのはきっとそのEがつく誰かさんだけなのだろう。

 

 ……と、ここで俺は不満そうに俺達を見つめる鎌鼬にようやく気づいたのだった。




***




 ── 一週間後。


 アモン君の想い人はアモン君の故郷であるシュトなんとか王国にいるらしい。

 その王国が近々世界中を巻き込むような大きな災難に襲われるようだ。

 正直じっちゃん達が心配だけど、約束してしまったものは仕方ない。

 俺は海を越えるべく海坊主君の頭の上に乗せてもらう。


「じゃあ行ってくるよじっちゃん! 鎌鼬! 皆ー!!」

「ふん、せいぜい獣に食われんようにな」


 見送りに来てくれたじっちゃんが少し不機嫌そうにそう言った。

 どうやらじっちゃんは俺が国を出る事を怒っているようだ。

 でも鎌鼬曰く「箱入り息子がいなくなって心底寂しんだぜ」なんだと。


「達者でな、信長! 可愛い嫁さん連れて来いよ~」

「か、鎌鼬! そのために行くわけじゃ、」


 ……まぁ、ちょっとは期待しているけど。

 世界を旅するわけだし可愛い女の子もいっぱいいるだろう……えへへ。

 そんな鼻の下を伸ばす俺の頬をアモン君が思い切り抓る。いたいれす。


 海坊主君に合図を送って、俺はついにヒノクニを出た。

 これからの冒険にワクワクしている俺の横顔を凝視するアモン君。


「……悪かったな、巻き込んで」

「? なに言ってるんだよ。女の子を助けに向かうって英雄みたいでカッコイイよ! 君は知ってる? ヒノクニの英雄、イゾウって侍! 随分前に行方不明になった人なんだけど、捕らわれの姫を救ったり、無理な税で民を苦しめる殿様を倒したり色々伝説があるんだ! 俺の憧れの人なんだ! カッコイイ……」

「……侍云々は分からんが、お前がカッコイイってだけで今この場にいる阿呆だということは分かったよ」


 アモン君は今後の不安を込めたため息を溢す。

 

「それにしても、アモン君の想い人ってどんな子なんだろう。楽しみだなぁ。きっと可愛い子なんだろうなぁ。えへへ……」

「……言っておくが、そいつはもう三十超えているからな」

「えぇ!? アモン君ってそういう趣味が……」

「違う! 俺が死んだのは十六年前だからだアホ!! 当然向こうは成長しているだろう馬鹿! 馬の鼻くそ!」

「なにその罵倒。馬……?」


 ──まぁ、色々不安はあるけれどとりあえず俺達の旅は始まった。

 海坊主君に揺られながら俺とサラマンダーはシュト……ロール?王国へ向かうのだった……。



***

ヒノクニのノブナガ終わりました。ちょっと急ぎすぎたかな? 

戦闘シーン上達したいものです。インプットして修行します。

まぁひとまずこれで三章を始められます。

プロットは大体出来ているのですが、どうやら三章は二章と同程度の長さになりそうです……(遠い目)。

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