ヘリオスの後悔
ただ、取り戻したかっただけだ。
己の人生の中で、唯一惚れた女を。
どこか儚げなように見えて、中身は凛と強く逞しいあの
──しかし彼女は我を見ていなかった。
だから強引に妻にした。
どうしても手に入れたかった。我に向いてほしかった。
夫婦になっても、彼女は我を見ない。
もっと国を栄えさせれば見直してくれるだろうか。
どの国よりも強い軍を持てば見直してくれるだろうか。
なんでもした。ホムンクルスという禁忌にも触れた。
だがそれは彼女にとって逆効果だったらしく、むしろその一件でさらに彼女との距離は遠ざかった。
あぁ、我はどうすればよかったのだ。
何をすればペルセネと真に結ばれることが出来たのだろうか。
ペルセネの死は我にとっての死と同義だった。
我が遠征に行っている間に彼女はあっさりと亡くなっていたのだ。
こんなことになるなら、日に日に弱っていく彼女を見るのが怖くても毎日顔を見ればよかった。
愛の言葉を、告白を贈ってやればよかった。
きっと我の想いすら彼女には届いていないだろう。
ペルセネよ、我が愛しの君よ。
どうかその碧い瞳をもう一度見せておくれ。
我の願いは虚しく、ただ虚無な日々が流れる。
そんな時だった。
我が僕であるスラヴァがこんなことを言ってきた。
『魔王城には死者を蘇らせる財宝』が眠っていると。
ただの根も葉もない噂だが、一人で魔族の国を作り上げた力を持つ魔王の城であることを考えるとあり得ない話でもないような気がした。
──まぁ結局のところ、真偽はどうでもいい。
このどうしようもない悲しみを向ける矛先が定まったわけだ。
魔王を倒し、亡きペルセネを取り戻す。
それが、それこそが、我が願い。
しかし……。
「……なんだ、これは……」
エレナという魔王の娘が死んだ。
それにより魔王の様子が豹変した。
今の魔王を一言で例えるならば、“黒い嵐”だ。
魔王は何倍、何十倍にも膨れ上がると、暴風と化し、半分石化した我らの軍を食い散らかしていく。
悲鳴が上がる。為すすべはない。
我はというと我が息子ノームのゴーレムにより、魔王に喰われることは免れた。
今は距離を置いた場所にいる。
我の傍には一緒に運ばれた妖精二人がエレナの亡骸に未だに必死に声を掛けている。
ノームは八つ当たりのように、魔王に喰われようとする部下たちを救おうと足掻いていた。
シルフはどこかに消えた。
もう、訳が分からない。
あんなに必死に集めた軍が、蟻のように、あっさりと──。
──どうして、こうなったのだろうか。
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