貫かれた光
「本当の、貴方って……まさか、」
「そう。僕の半身を取り戻すってことだよ」
ルシファーが魔王に熱い視線を送る。
当の本人である魔王は「どういうことだ」と首を傾げた。
「エレナ、何か知っているのか?」
「……うん」
エレナは目を泳がせながらも、魔王に話した。
魔王が、ルシファーの下半身であったこと。
それが百年前、大天使ミカエルの血によって分裂したこと。
ドリアードとニクシーは酷く動揺したが、魔王は静かにエレナの話を聞いていた。
「……そうか」
どこか、納得したような声色だ。
そしてゆっくりエレナの頭を撫でる。
場に合わない動作にエレナはポカンとした。
「パパ?」
「有難う、エレナ」
「え?」
「ずっと怖かったのだ。私の心のうちに常にある怒りに。いつ噴火してしまうのか分からない恐ろしい火山を胸に抱えているようだった。私が私ではなくなってしまう恐怖が私を襲っていた……」
魔王の動作があまりにも優しく、彼を知らない人間軍一派は戸惑ったことだろう。
エレナは魔王のマントをきゅっと握る。
「だがお前に出会ってからは違った。怒りよりも大きな感情を手に入れることが出来たからだ。それが何かは、お前が一番分かってくれているはずだ」
「うん、うん……っ」
そこで魔王の視線がルシファーに向けられた。
「……我が半身の、ルシファーといったか。純粋な悪である貴様には私は適合しないだろう。
「…………、」
ルシファーはピクリと眉を顰める。
そして心底気持ち悪いといった表情を浮かべ、口を抑えた。
「あぁ、吐き気がするなぁ。いっそのことこの場で内臓まで吐き出してやりたいくらいだ。気持ち悪いほどにミカエルの野郎の血が浸透してるんだね、君。気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い……」
その声には、確かに揺れる嫌悪が込められている。
「でも君の言う通りだよ。今の君を取り込むことは出来ないだろう。ならばどうするか? 簡単な話なんだ。その為にここに
「餌? 鍵?」
「……ふふ、あはは。魔王君、君の中にある愛とやらの根源つまりはミカエルの血を君自らに喰らってもらうしかないって事だよ……!!」
ルシファーが己の背後にいる分身たちに合図を送る。
それと同時にベルフェゴール、ベルゼブブ、レヴィアタンが一斉にヘリオス、ドリアードとニクシーに襲い掛かった。
魔王はドリアードとニクシーを守るように身体を張った。
ノームは土を操り、ヘリオスを守る為の壁を作る。
一瞬の事だった。
魔王とノームがエレナから気を逸らした瞬間。
いつの間にか、エレナの目の前に、ルシファーがいて。
「──えっ?」
エレナ本人ですら、後から気付いたような声を上げた。
ニクシーとドリアードの悲鳴が周囲を刺す。
──ルシファーの青年にしては細い腕が、エレナの胸を貫いていたのだ。
ノームは世界がスロー再生されているかのように思えた。
この世で誰よりも愛しい人が、悪魔に、心臓を──。
「エレ、ナ……?」
「…………っ、あ、」
エレナが血を吐いた。
そしてそのまま、ルシファーの方に倒れる。
ルシファーは倒れてきたエレナの身体を優しく抱くと、恋人にするかのようにエレナの額に口づけた。
「おやすみ、愛しいエレナ。僕の可愛い娘よ。僕の為に死んでくれてありがとう」
ルシファーがゆっくりエレナの身体を地面に横たわらせる。
それを見たノームは無意識に剣を投げ捨て、拳を握りしめながらルシファーに襲い掛かっていた。
意味の為さない言葉と共に。
ルシファーがそんなノームの拳を軽々と受け止め、衝動波で押し返す。
ノームの身体は力を失ったゴーレムのようにあっさりと崩れ落ちた。
「エレナ!!! エレナぁ!!」
ドリアードとニクシーがエレナの傍に駆け寄る。
エレナは動かなかった。
そこに命はない。あるのは静だけ。
エレナの腕や頬に頬ずりをし、涙を擦りつける二人を見て、魔王は──。
──“憤怒”に、攫われた。
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