赤毛の少女
──どうして、こうなった。
エレナがサラマンダーの体内に飛び込んでいる一方──アムドゥキアスは己に問いかけていた。
首を噛みちぎられそうになりながら。
己の首に牙を立てる弟をどこか他人事のように見つめていた。
──こいつはおそらく何者かに取り憑かれている。
──しかしアスはそんな簡単に憑依されるタマではない。
──そういえばアス、随分前に突然女口調に変わったんだったか。
──今こうして俺の首に食いつく
──そうか、俺が気づかなかっただけで……アスは何年も前から……。
もう抵抗する気にもなれない。
何も気づけなかった己に怒りを覚えた。
そんな自分はこのまま弟に噛み殺されるのがお似合いだ。
──しかし。
──アスに、兄殺しという罪を背負わせるわけにはいかない。
──こいつは優しいヤツだから、我に返った時自殺しかねないだろう。
──そんな最期は俺が認めないぞ、アス。
アムドゥキアスは炎を吐く要領で喉に熱を込めた。
すると慌ててアスモデウスが口を離す。
アムドゥキアスはその隙にアスモデウスの身体を蹴飛ばした。
体勢を整えたが、アスモデウスの目はどうアムドゥキアスを喰ってやろうかと言わんばかりに目がギラギラしている。
「アス!」
「────!!」
もはや言葉は通じない。そこにいるのはただの獣だ。
アムドゥキアスは牙の隙間から悔しさを滲ませる。
──なにか、〝きっかけ〟さえあれば──!!
──なんでもいい、あいつの目を覚ますことの出来る、きっかけを──!
刹那、だ。
「──アスモデウス!!」
「!」
空から天馬が降り立った。
その背には赤毛の少女が乗っていた。
少女は天馬の上からアスモデウスに声を掛けている。
「アスモデウス! お前、アスモデウスだよな!?」
「…………!?」
──アスが、動揺、している……?
アムドゥキアスの声に耳を傾けなかったアスモデウスが赤毛の少女に初めて戸惑ったように首を泳がせたのが分かった。
──そういえば……アスが人間の女性の所に居候しているとリリスから聞いたな。
──冗談だとその場は笑い話にしたが……まさか?
少女は必死にアスモデウスに言葉を投げているが、アスモデウスが戸惑ったのはほんの一瞬だった。
すぐに少女の身体を噛み砕かんと牙を剥き──。
天馬からバランスを崩した少女が空中に身を投げ出す。
それを間一髪、半竜と化したアムドゥキアスが少女を横抱きし、救った。
「え!? なに!? だれ!?」
「アスモデウスの兄だ! おい娘! お前、どうしてヤツに話しかける!」
「アスモデウスのお兄さん!? あ、えっと、その、アス、今悪魔に取り憑かれてるんですけれど、私、持ってるんです! アスを正気に戻すものを!」
「! それは本当か!?」
「はい。大天使ミカエル様の血です! それをアスに飲ませればアスの中にいる悪魔は浄化できるって……!!」
アムドゥキアスは半信半疑だったが、直感的に感じたのだ。
この少女が、おそらくエレナと同種の人間であることを。
嘘のつけない、どこまでも真っ直ぐな瞳。
それに伝説でしか聞いたことがない純白のペガサスと共に彼女が現れたということも彼女の話を信じるに値すると判断した原因でもあった。
アムドゥキアスはアスモデウスと少女を交互に見る。
「……娘よ、名前は」
「サラです!」
「よし、サラか。私は君を信じるぞ! 私がどうにかあの馬鹿弟の動きを止める! その隙にその血を飲ませてくれ!」
アムドゥキアスの言葉にサラは力強く頷いた。
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