炎のトカゲ


「サラマンダー、目を覚ませ!」


 ノームは必死に声をかける。

 その先は──炎を纏う巨大なトカゲへと化した弟。

 素速くゴーレムを召喚し、サラマンダーの動きを止めようとするが、炎のトカゲは止まらない。

 炎に有利であるウィンディーネはシルフに苦戦しているようだ。

 それに、目の前のコレは、己が止めなければとノームは心に決めていた。

 しかし下手に攻撃すればサラマンダー自身が傷ついてしまうのではないかという懸念がノームの判断を鈍らせているのも事実だ。

 サラマンダーは既に人間の言葉を発すことは出来なくなっていた。

 甲高い音を撒き散らせ、炎を吹き、全身から黒煙が漂っている。


──くそ、早くどうにかしないと進軍が!


 するとその時、サラマンダーが光線を吐いた。

 ソレはノームを肩に乗せていたゴーレムを破壊し、ノームは地面に投げ出される。


「しまっ……!!」


 ノームは頭を抑え、必死に揺れる視界の回復に努めるが──。

 熱を感じた。すぐ目の前にサラマンダー。

 ノームはサラマンダーを刺激しないように、ゆっくり足下の地に触れる。


「……サラマンダー……、」

「────!!」

「余は、お前にそこまで嫌われていたのか……」


 ノームは胸を掴み、サラマンダーを真っ直ぐ見上げる。


「タ……スケ……テク……レ」

「!!!」


 微かに聞こえた彼の残滓をノームは確かに感じ取った。

 そして──。


「──ノームー!!」


 空から己を呼ぶ愛しい声にノームは唖然とする。 


「え、エレナ!!?」


 ペガサスがエレナを地に下ろし、時間稼ぎにとサラマンダーへ挑んでいく。

 ノームは突如天馬と現れたエレナに驚くばかりだ。

 

「エレナ! お前、一体何があったというんだ?」

「色々話したいことはあるんだけど、とりあえず説明は後で! というか、それよりもこのトカゲは!?」

「アレはサラマンダーだ! 突然あんな姿になった! しかし今、あいつが助けてくれと言ったのが聞こえたんだ。あいつは確実にあの中にいる!」

「! サラマンダー王子が?!」


 エレナは炎のトカゲを凝視する。

 ノームは今のうちにとゴーレムを召喚する為の魔法陣を地面に描いていた。

 その時、サラマンダーとエレナの視線が巡り会う。

 彼は数秒程固まった後、その焦がれていた金髪の少女へ──

 咆哮は風となり、エレナとノームを襲う。

 ノームが反射的にエレナの身体を抱き寄せた。

 エレナはサラマンダーから目を離さない。


「……呼ばれてる」

「なんだって?」

「声が聞こえたの。サラマンダー王子、きっと私の事呼んでる。凄く苦しんでるみたい……。ねぇノーム、」


 エレナの混じりけのない黒がノームを射貫く。


「行ってもいいかな。彼の中に」

「…………!」


──行かせたくない。


 ノームは一番にそう思った。

 だが。


「……妻を信じないで、何が夫だ……」

「ノーム?」

「いや、なんでもないさ。サラマンダーを、余の大切な弟を、頼んだぞ、エレナ……!」


 ノームの力強い言葉に、エレナは満面の笑みで頷いた。

 するとそこでシャドーが心得たとばかりにエレナの身体を抱く。


「──ノーム、行ってくる! サラマンダー王子をあの中から救い出してくるから!」


 そして──エレナへ向かって何度も吠えるその熱い口内へ、エレナとシャドーは飛び込んだ──!!

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