花園の彼は語る
ペガサスさんに揺られてどれくらい経っただろうか。
一日はかかったような気がする。
思わずペガサスさんの背中が心地よくて眠ってしまった。
──そして。
起きたら、天国にいた。
「……ここ、どこ?」
……天国という言葉には語弊がある。
おそらく私は死んでいない。
頬を抓っても痛いからだ。それに私の傍らではサラさんも眠っている。
それにしてもこの花園……どこかで見たような。
あぁ、妖精の里リュミエールに似ているのか……。
とりあえずサラさんを軽く揺すって起こした。
「……んん、エレナ?」
「サラさん、起きて」
「ん。……ふぁあ……ん? なんだここ」
サラさんもパチパチ瞬きを繰り返し、果ての無い花園に唖然としている。
ペガサスさん、どうして私達をここに連れてきてくれたんだろう。
「起きたようだね」
今にも頭を撫でられそうな心地のよい低音にハッとなった。
周りを見渡せば、うっすらと視界を遮っていた霧も晴れ、優雅にシャドーさんとお茶を飲む長髪の青年が現れる。
「えっと……貴方は?」
「私はミカエル。よろしくね」
「ミカエル……?」
まさか。
私は目を擦ってもう一度青年を見る。
青年の背中には純白の翼。
透き通っていない、正真正銘の羽毛から成り立っている翼。
これは……。
「だ、大天使、ミカエル様? 嘘……!?」
「あぁ! ちょ、ちょちょちょ!? いきなりそこを触らないでくれたまえ! 付け根は弱いんだ!」
「あ、す、すみません。つい」
「エレナ。この人は誰なんだよ」
「本当に大天使ミカエル様だとしたら……神様に一番近い人で、大地を司る第一天使様だよ」
私の説明にサラさんはピンと来ないようだ。
それもそうだろう。
私達の目の前でティーカップを片手にのほほんとしている彼が第一天使とは到底思えない。
「まぁまぁ。君達も目が覚めたことだし、時間も無いし、本題に入ろうか。単刀直入に言うね。エレナ、君──
ミカエル様の言葉に思わず間抜けな声が漏れた。
「我が主、
「……!」
サラさんが意味が分からないと顔を顰める。
しかし私には心当たりがあった。
……も、もしかしてこのミカエル様、私が異世界から転生してきたことを言ってる?
えぇ、じゃあつまり、私が異世界転生出来たのは神様の気まぐれって事!?
気まぐれの規模が違う……。
ミカエル様の言葉はさらに続く。
「つまりだ。エレナちゃん、君は神の御眼鏡に適った故にここにいるんだ。そんな君なら勇者の素質は十分にある!」
「わ、私、戦えませんよ!? それに私が勇者になったとして、ミカエル様は私に何をして欲しいのですか? 私が知りたいのはその先です」
「おっと、そうだね。それをまず言わないと」
ミカエル様はティーカップをお花の茎で出来たテーブルに置く。
シャドーさんは相変わらず微動だにしない。
「私の目的は──ルシファーを再び冥界に封印することだ。彼を消すことは絶対神でも出来ないからね。二度と動けないように拘束するしかないのさ」
「……では、ルシファーは既に封印を解いているのですか?」
「そう。情けないことに一度逃げられたんだ。
「えぇ!」
「というか、ルシファーのやつ、今までずっと
私は思わず飛び跳ねた。
ミカエル様はそんな私を可笑しそうに笑う……笑い事じゃないんだけど。
悪の根源なんて恐ろしい存在が今まで私の傍にいたと思うと、こちらとしては鳥肌ものだ!
「でも実際、君も薄々勘づいていたのでは? 近寄りたくないと思ってしまうような気配を感じる人物がいただろう?」
「……まぁ、確かに。私の傍にいる人って言われて一番に思い浮かんだ人はいますけど……。でも、シルフさんは私の為に色々協力してくれましたよ」
「はは、ヤツも相当君を気に入ってしまったんだろうねぇ。ここまで
「? ルシファーが、二人いるって事ですか?」
「いや、絶対悪はルシファーただ一人だよ。だけど百年前、
「ぶん、れつ?」
私達の話にサラさんはついて行けていないようだ。
そういう私もよく理解出来ていない。
つまり要約すると、ミカエル様が語る話はこうだ。
人間が誕生し、それと同時に世界には〝
それから欲のままに地上で暴れる悪の根源に絶対神は長年手を焼いたのだという。
〝絶対神〟であるが故に、むやみに地上に現れる事が出来なくなった絶対神は四人の使徒を作り出した。それが大天使ミカエル様、ラファエル様、ウリエル様、ガブリエル様だ。
そして──絶対神から作り出されたミカエル様はやっとの思いで百年前にルシファーを追い詰めた。
問題はその時に起こった。
ミカエル様はルシファーの力を弱める為に、彼に己の血を浴びせた。彼に触れることはできなかったから、己の聖なる血で清めようとしたのだ。
ミカエル様の血は確かにルシファーの下半身を濡らした。
しかし──。
「──いやぁ、まさかルシファーが自分で
「え、えぇ……ちょっと話が凄すぎてついて行けません。ルシファーはミカエル様の血がついた下半身を切り捨てたのですか?」
「そう。そして上半身の方を捕獲した僕は僕の加護の鎖で冥界に封印した。でもそれって、僕の力だけで作った鎖だから、僕とラファエル、ウリエル、ガブリエルが束になってようやく対等っていう相手をそう長く縛れるはずなかったんだよね」
「……ちょっと待ってください。まさか、その下半身の方って……!!」
私は両手で口を抑える。
わなわなと呼吸が震えた。
思い出したのだ。
シルフさん──ルシファーは、言っていた。
それって──元は自分の一部だったからってこと?
「ふふ、気づいた? そうだね。ルシファーの記憶は上半身の方に記録されていたみたいだし、
──パパ。
──あなたも、悪魔だったんだね。
***
落ち着いたら推敲します。とりあえず更新。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます