光が当たれば影も差す
「ごほっ、が、は、はぁっ、はぁっ」
「!! え、」
──恥ずかしさやらなんやらでノームのお腹を勢いよく拳で突いたらノームが何かを吐き出した。
ノームに吐き出された闇は二つに分裂し、片方はベルフェゴールの生首に変わる。
その生首の表情は悔しさを滲ませていた。
「ちっ、隙を突かれたか! お、お、おお覚えてろよ!! この、このぉ……破廉恥女!!」
「なっ!」
ベルフェゴールはそう言い残すなり、消えていった。
そしてヤツと共に吐き出された闇が蠢いて、パパの姿に変わる。
彼に目玉はないけれど、優しげな視線を感じた。
「……本当にありがとう、シャドーさん」
「?」
咄嗟に出た名前に彼は首を傾げる。
「あなたは私の影から出てきてくれたでしょう。だから、シャドーさんって呼ぶことにするよ」
「……分かっているのか? 我は既に君の魂に宿ってしまっている。悪魔の種は大天使の力でもない限り消すことは出来ないのだぞ? つまり我は死ぬまで君の中にいるというわけだ」
「最初はそりゃ怖かったけどね。でももう怖くない。むしろ心強いよ。私は君を私の一部として受け入れるつもり」
「……そうか」
シャドーさんはしばらく間を置いて、もう一度同じ言葉を繰り返す。
その様子はパパそっくりだ。
「我、最期まで光と共に」
そう言って、彼は私の影にゆっくり沈んでいった。
……はっ!? そうだ、ノームは!?
慌てて見れば、地面に仰向けになり、お腹を抑えているノームが。
ノームは私を見上げるなり、困ったように──微笑んだ。
「──効いたぞ、お前の一撃」
「!! ノーム!!」
私はすぐにノームを抱きしめる。
ノームはそんな私の頭を撫でた。
「はは、エレナから接吻をしてもらえるなら、悪魔に憑かれた甲斐があったものだ」
「何言ってんの馬鹿!! ほんとに、馬鹿! あっさり悪魔に身体乗っ取られてるんじゃないわよ……っ」
「うむ、すまない。お前とお前の悪魔が余に言葉を掛けてくれなかったら、余の魂は目覚めすらしなかっただろう」
「うぅ、ほんとに、あほ、のーむの、あほぉ……」
「……また泣かせてしまったな」
ノームが私の目元に触れ、涙を拭う。それでも安堵から涙は出てきて。
今日はずっと泣いてばかりだ。
ノームの胸に顔を押しつけて、軽く拳で何度も叩く。
馬鹿、馬鹿、馬鹿。そう呟きながら。
ノームは黙ってそんな私を受け入れていた。
「エレナ、こんな時に言うのもなんだが」
「なによ」
「口づけ、もう一度してくれるか?」
「!? ……はぁ。もうやけだよ。この際、何回だってしてあげるんだから」
「ふふ、言ったからな」
ノームが私の後頭部に手を固定し、私を引き寄せる。
そして──。
唇が触れあった。
離れそうになったら、再度啄むように、相手の唇を飲み込んで。
何度も、何度も……。
……キスが終わった後、国民達の歓声によってここが人前だと気づいた私が恥ずかしさで死んでしまいそうになるのは──あと数分後の話だ。
***
愛し合うノームとエレナを見ていた国民達は思わず歓声と拍手を二人に贈っていた。
ノームが悪魔かもしれないという疑いが消えたわけでも、ノームから受けた傷が治ったわけでもない。
しかし、ノームが今まで築いてきた彼への信頼も、思っていた以上に厚いものだったのかもしれない。
──ノーム様があんな事をするはずがないだろう!
──見ただろあのノーム様が吐き出した生首の悪魔を! あれがノーム様を操っていたんだ!
──だけど、あの骸骨頭の怪物の方ははなんなの? 今ノーム様と一緒にいる女の子から出てきたわよね?
──あの悪魔は操られていたノーム様と戦っていただろ! きっといい悪魔なんだ!
──そんな悪魔いるの?
──少なくとも、今あの子と幸せそうに笑っているノーム様だけは、信じていたいよな……。
様々な声が飛び交い、負傷者は国の兵士達により治療される。
エレナも治癒魔法が使えることもあって、その治療班に加わった。
少しでもノームの誤解が解けるように、奮闘する。
──そんな中、とある人気のない路地裏では。
「国民達からの信頼は傷つきはしたけれど、ノームなら特に問題はないだろう。彼は丁寧にその傷を縫い合わせていくカリスマ性があるからね」
「……ふん」
シルフとサラマンダーが壁に寄りかかりながら、雑談をしていた。
まぁ、実のところ人目を避け路地裏から城に帰ろうとしたサラマンダーをシルフが呼び止めただけなのだが。
「それにしてもあの二人、試練を乗り越える度に愛を深め合っていくねぇ。運命の相手って彼らみたいなのを言うんだろうな。実に微笑ましい」
「どの口が言っているシルフ。その顔からして、反吐が出そうだの間違いだろう」
「おや、よくお分かりで。僕の事、理解しようとしてくれてるの?」
「お前の事なんざ理解出来るわけない。
シルフの顔がにんまりと歪んでいく。
まるで昔からの親友のように、サラマンダーの肩に腕を回す。
「なになに、何か言いたげだねサラマンダー? いいよいいよ、今なら機嫌がいいから大抵のこと聞いてあげちゃう!」
「……なぁ、シルフ」
今、サラマンダーの脳裏に浮かんでいるのは──。
「俺は──あいつが、エレナが……どうしようもなく、欲しい。お前の言う何もかも手に入る力とやらを、俺に寄越せ」
サラマンダーのその言葉に、シルフは思わず絶頂してしまいそうになった。
興奮がゾクゾクとシルフの身体の芯を走る。
「いいね、その言葉。さいっこう!!」
シルフはサラマンダーの周りでくるくる踊りながら、楽しそうに楽しそうに笑った後──瞳に闇が蠢くサラマンダーを抱きしめた。
そして彼の耳元で、囁く。
「──ようこそ、哀れなサラマンダー。僕は、
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます