最悪の再会


 ──夜 トループ村にて。


 トループ村の夜はなんとも不気味だった。悪魔が今にも飛び出してきそうな雰囲気だ。

 悪魔との戦いで、へっぽこ魔法しか使えない私は確実にノーム達の足手まとい確定。それを承知で何故ここにきたかというと──。

 ヘリオス王からの情報によると、三人の悪魔の容姿も分かっていた。

 一人目は巨大蜘蛛の姿をしている悪魔ということから、おそらくベルゼブブ。

 二人目は……狼の耳と尾、漆黒の髪を持つ男の姿をした悪魔。


 ──そして、問題なのは三人目だ。


 それは血のように真っ赤な肌に、白銀の髪に、額には一本の角が生えていたという。

 これは十中八九、ルーメンだろう。

 私はどうしても知りたかった。

 ルーメンがどうしてテネブリスから消えたのか。何故ベルゼブブ達と一緒にいるのか。

 ……待つだけじゃ、もう嫌だ。


「エレナ、余の傍を離れるな。一応短剣を握っていろ」

「う、うん」

「もしルーメンに出会っても暴走しないでくれ。何かあったら護れない」


 私は頷く。

 そして私達は寂れた「トループ村~立ち入り禁止~」という看板を潜って、村に足を踏み入れた。


 村に入るなり、さっそく人影を見つける。

 どうやら背の低い男の人が倒れているようだ。

 私はすぐに駆け寄ろうとしたが、ノームがそれを止めた。

 シルフさんが代わりにそれに駆け寄り──。


「あ、あ゛……」

「うわぁ」


 流石のシルフさんでも引いてしまう程の醜悪。

 男性の顔が腐っていたのだ。

 鼻をつんざくような匂いに顔を顰めてしまう。

 ……でもどうしてだろう、この人、腐っているというより……


 すると周辺の土が盛り上がっていく。

 あちこちから、手が生えてきた。


「……っ、嘘! これって……!!」


 ゾンビだ。ゾンビがどんどん柔らかい地面から這い出てくる。

 私は混乱して、息が弾んだ。

 

「エレナ、落ち着け。大丈夫、余がいるだろう」

「! ……うん、ご、ごめん。ありがとう」


 駄目だ駄目だ、ただでさえ迷惑かけてるのに!

 私はなんとか深呼吸で落ち着きを取り戻した。

 するとここでウィンディーネ女王が不満そうな声を上げる。


「なんだ、悪魔はおらんではないか」

「んー。いや、いるよちゃんと。こちらの様子を見ているようだね。つついてみようか?」

「勿体ぶるなシルフ。さっさとやれ」

「はいはい」


 シルフさんが腕を素速く振り回し、その動きに合わせて風鎌が空を裂いた。

 そして、響く叫び声。建物の屋根の上に、誰かが現れる。


「いってぇ! なんだあの野郎! 霊体状態の俺様に気がつくとは何者だよ!?」

「お前がのろまダカラだよォ……」

「あ!? なんだてめぇベルゼブブ! やるってのか!?」

「…………、」


 私は目を疑う。

 報告にあった通り……ベルゼブブと漆黒の男の間にいるのは……。


 月夜に照らされた、血のようなその肌は──!!


「──ルーメン、」


 ルーメンと目が合う。

 彼は六年前よりさらに成長し、その好青年っぷりに磨きがかかっていた。

 私は、久しぶりに見た大好きな弟に、視界が少し滲む。


「ルーメン、こんな所にいたんだね……!」

「…………」

「あ? ルーメンって誰だ? おい女、てめぇ何言ってやがる?」

「アンタには話しかけてない! 黙ってて!」


 漆黒の男にそう怒鳴ると、男は癇癪を起こした。


「あぁ!? んだとてめぇ! さては怠惰だな!? よし、今すぐ俺があの女を、」

「やめてください」


 そこでやっとルーメンが言葉を発す。


「ベルフェゴールさん、彼女には手を出さないでください。しばらく他の勇者と遊んでいてもらえますか?」

「! ……ちっ。可愛い弟分にそうお願いされちゃあ仕方ねぇな……しかしレヴィ、もしかしてあの女が、お前の……」

「はい。彼女が──エレナです」


 ルーメンが再度私を見つめた。

 私は、今にも泣きそうだった。

 最悪な事態しか、想像できなかったからだ。

 


 ……ルーメン、どうして貴方がそこにいるの?

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