安らぎは一瞬
サラマンダー王子の誕生日会も無事に終わり、彼との距離も少しは近づいた気もする今日この頃。
シーズンフラワーも白色から桃色へとすっかり色づいていた。
まぁ、シュトラールは年中暑いからあんまり春を感じられないけれど。
私はレガンの身体に寄りかかって、モフモフしながらの読書。
あぁ、幸せだぁ……。
相棒のレイにこんなところを見られたら多分三日は無視されてしまうだろう。
でもレイにはモフモフがないし。彼はは虫類特有のツルツルというか……あれもあれで気持ちいいんだけどね。
図書室から借りた大天使ミカエル様達の本を熟読する。
先日ガルシア王に教えてもらった大天使の存在。それらについて記した本はいくつもあった。
大天使は四人。ミカエル、ガブリエル、ウリエル、ラファエル。
アトランシータに像があったラファエル様はガルシア王も言っていたとおり、勇気の大天使で、海を司っている。
ウリエル様は愛の大天使で空を、ガブリエル様は希望の大天使で冥界を、そして最後にミカエル様は第一天使……つまりは神に最も近い天使で、大陸を司っている、と。
要はそれぞれの大天使様に担当領域があるって話。
そして大天使様達はその担当領域に縛られていて、他の領域には入ることが出来ない。
あと気になったのは神の対となる存在としてどの本にも“悪魔”が描かれていること。
そもそも悪という存在がなければ正義にはなれない。
故に神が絶対正義になる為に必要な
ルシファーが消えればそもそも神が正義であるという大前提がなくなるので、大天使達はこの悪魔を
私はここで悪魔という言葉に眉を顰める。
魔王城にいる悪魔お化け達ははそもそもパパの魔力で出来た滓の塊だから、今は関係ないとして……先日孤児院にいたベルゼブブも悪魔だった。
「悪魔ルシファーは冥界の底で神ですら拘束する鎖で封印されている……か」
悪魔はルシファーしか存在しないって記してあるけれど……じゃあベルゼブブは本当の悪魔じゃないのかな。
悪魔じゃないなら彼は一体何者なんだろう。
「あーもー! 分からない! 分からないよ!」
「きゅう?」
後ろに倒れると、モフモフが私を襲う。
あぁ、気持ちいい。最高!
本を置いてレガンの翼に顔を埋めて、頬ずりする。
するとそこで私の部屋のドアがノックされた。
「エレナ! 帰ったぞ!」
「あ、ノーム。おかえり~。隣国の王様との交流会お疲れ様」
「なっ!? レガンお前! なにエレナに抱きしめられている!」
「ぎゃぎゃ!」
レガンがノームを鼻で笑う。
ノームが悔しそうに顔を歪め、私のすぐ傍に胡座で座った。
そして両手を広げ、何かを待っているかのように私に目で訴えてくる。
……そこに飛び込めと?
「嫌だよ」
「んなっ!? エレナ、余は疲れている! 疾くその愛らしさで癒やしてくれと言っているんだ」
「だってノームはモフモフしてないもん」
「ぎゃっぎゃっぎゃっ」
レガンがケタケタと大笑いするかのように首を揺らした。
ノームはショックを受けたようで固まっている。
ちょっとからかいすぎたかな。
私は仕方なく、ノームの足の間に体育座りをした。待ってましたとばかりにノームの筋肉質の腕と足が私をがっしりと拘束する。
耳の傍でノームの嬉しそうな声が響いて、恥ずかしい。
「エレナ……愛い!」
「恥ずかしいから耳元で囁かないで欲しいな」
ぐりぐりと私の肩に顔を押しつけてくるノーム。
ちょっと苦しい。
……でも、それと同時に心地よいと思ってしまうのは、重症だ。
「……エレナ」
「!?」
こ、この吐息まじりの声は……!
私は息を呑んだ。
「の、ののノーム、なんか最近多いね」
「ん? 何がだ」
「何って、その、えっと……き……きき……」
絶対からかわれてる! ノーム今笑ってるでしょ!
身体を捻って上半身だけノームの方に向けると、案の定だった。
「ふふ、仕方ないだろう。エレナとの口づけがあれば、余は悪魔にも負ける気がしない」
「だからそういう恥ずかしい台詞をさらっと吐かないでって言ってるの!」
「そうか。まぁ、頭にはいれておく」
絶対嘘だ。
するとゆっくりノームの顔が、迫ってきて……。
いや結局するんかい!
でもなんか、デジャブ……っていうか……。
「──エレナ!」
「きゃ!? うぃ、ウィンディーネ女王!?」
「ぶっ」
咄嗟の事で私はノームの顔を両手で押し潰してしまう。
ノームは私の両手に挟まれたまま唇を突き出して、「またか」と不機嫌そうに女王を睨んだ。
っていうか、ウィンディーネ女王がどうしてここに!?
「ヘリオスから緊急で呼び出しがあってな。ノームも玉座の間に来い! ついでにエレナも来るとよいぞ」
「き、緊急……? どうしたんだろう」
「……嫌な予感がするな」
ノームがため息を溢し、やれやれと立ち上がる。
するとウィンディーネ女王が私の腕を引いて、私の顔に自分の胸を押しつけた。
「うぶっ!? 女王様!?」
「ノームだけずるいからな。私にも抱かせろ」
「女王! 余の妃に軽率な接触は控えてください!」
「いいではないか。ガルシア王も言っていたぞ。広い心を持て、とな」
「余はエレナの事に関してだけは寛大にはなれないしなるつもりもない!」
いつものように口喧嘩を始める二人を宥めながら、私はなんとか玉座の間に向かった。
玉座の間で待ち構えていたヘリオス王はどこか落ち着きがない。
既にそこでシルフさんが私達を待っていた。
……あれ? サラマンダー王子はいないの?
「ヘリオス。揃ったぞ」
「う、うむ。ウィンディーネ女王、突然の招集に応じてくれた事、感謝する」
「ふん、エレナがいなければ無視していたがな」
相変わらずヘリオス王には厳しいウィンディーネ女王にヘリオス王が分かりやすく不快そうな顔をする。しかしすぐに咳ばらいをし、顔色を元に戻した。
「その、実はな。領土内の最端にあるトループ村で……なんだ、その……不可解な事件が起こっていてな」
「と、いいますと?」
「う、うむ」
どうも王様の歯切れが悪い。
するとここでスラヴァさんが王の代わりにと口を開く。
「トループ村で腐食した人間が現れるようになったのです。発見者は
「腐食……?」
「我々は諜報部隊を村に行かせました。そこで……三人の悪魔の存在が確認されたのです」
「!?」
悪魔が、三人も!?
だから、勇者も三人呼び出したのか。
でもウィンディーネ女王よりサラマンダー王子を呼び出した方が早かったんじゃないのかな。
それに気になるのは腐食した人間。
腐食って……もしかしてアトランシータを襲った怪魚達と関係があるのだろうか?
「──は、トループ村とはな」
突如現れた声にハッとなる。
振り返ると、サラマンダー王子が玉座の間の入り口の傍の壁に寄りかかっていた。
ヘリオス王の顔が苦虫を噛みつぶしたようなものになる。
「さ、サラマンダー!? お、お前は呼んでおらん!」
「悪魔一人にあのシルフも苦戦したときく。ならば勇者三人では心許ないだろう。俺も行く。……異論はあるか? 父上?」
「う、うぬぬ……」
そうだ、大勢で行った方がより確実だろう。
だというのに、王はどうしてあんなに気まずそうなのか。
ヘリオス王はサラマンダー王子にトループ村に行ってほしくはない理由でもあるのだろうか。
私はなんだか折り合いの悪い二人に首を捻った。
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