怪魚とラファエル像
海の目。今度は気を失う前にそこから抜け出すことが出来た。
ウィンディーネ女王の声に目を開けるとそこは──。
珊瑚やイソギンチャク、色とりどりの岩石から成り立っている立派なお城。
あまりの美しさに魂が奪われてしまいそうになる。
その城の様々な出入り口から数多の人面魚や人魚達が顔を覗かせていた。
その城の正面で構えているのは──おそらく。
「ガルシア王!」
「がははは! 来たかノーム!! 我が友よ!!」
ノームとガルシア王が握手をし、力強く抱きしめ合う。
どうやらノーム、ペルセネ王妃の一件以来ガルシア王と手紙のやり取りをしていたようだ。
どうやってアトランシータから手紙を送ってるんだろう。後で聞いてみよう。
するとガルシア王がシルフさん達に目を向ける。
「ノーム、こちらは……」
「あぁ、右から余の弟のサラマンダー、水の勇者でありスペランサ国王のウィンディーネ女王。最後に風の勇者シルフだ」
「な、なんと! あの神に愛されし者達が全員だと!? 豪華だな!?」
ガルシア王はまた豪快に白い歯を見せて笑い出す。
「うむ!! 歓迎するぞ我が友の友人よ! 我が誕生祭を楽しむがいい!」
よかった、ガルシア王、本当に嬉しそう……。
するとノームが私の腰に手を回す。
「ガルシア王、紹介が遅れた。こちらが余の
「あ……えっと、こうして話すのは初めまして、ガルシア王。光栄です。エレナと申します」
「おぉ。婚約者、か! 以前はまだ恋仲になっていなかったが……そうかそうか!」
ガルシア王がにんまりする。
私は差し出されたガルシア王の大きな手を握った。
「よく来た、エレナよ。以前来たときは気を失っていたからな。こうしてみるとノームが選んだだけ、いい目をしている。そして美しいな」
「あ、ありがとうございます……」
ちょっと照れくさいけど、嬉しかった。
するとガルシア王が両手を広げる。
「うむ! 今日は実に素晴らしい誕生祭である。 久々の陸からの客人だ。 皆、思う存分もてなせ!!」
そんなガルシア王の声に応えるようにお城から一斉に人魚達が飛びだしてきた。
どうやらごちそうを既に用意してくれているらしい。
──その時。
ガルシア王の水竜さんが勢いよく城の門の中へ飛び込んできた。
「おぉ、シー! お前どこにいっていた?」
水竜さんの言葉が分かるのだろう。ガルシア王は水竜さんの言葉に頷いている。
するとガルシア王の顔が怒りで歪んでいった。
……何かあったのだろうか。
「ガルシア王?」
「すまんな、ノーム、エレナ、ご友人達。ちぃっとばかし邪魔が入ったようだ」
「邪魔?」
「せっかくだ。其方達も来るといい。客人に暇を与えるのはどうも好かん」
「??」
***
「──我が誕生祭の宴を遮る不届き者めが!!」
ガルシア王のいう〝邪魔者〟とはアトランシータに襲いかかろうと群れを成す怪魚達の事だった。
ガルシア王によると、どうやら怪魚達の群れは最近頻繁にアトランシータにやってくるのだという。
しかしそれらを渦を作って吹き飛ばしていくガルシア王の力はあまりにも圧倒的だった。
ノームにしがみついていないと私も吹き飛ばされそう!
するとそこで私の足下に何かが蠢いた。
よく見るとそれはその怪魚の残骸。
……遠くてよく見えなかったけれど、この怪魚達、身体が腐ってる?
まるで──ゾンビだ。
どうして腐食した魚が動いているのだろう。誰かに操られているのかな。
もしかして、この間のベルゼブブとかいう悪魔が関わっているのではないだろうか。
でもベルゼブブは腐食させる能力はないような気がする。彼は腐食させる前に食べそうだし……うーん。
「エレナ、無事か?」
「う、うん。ありがとうノーム」
どうやらガルシア王は全ての怪魚を退治したらしい。辺りの海流が落ち着きを取り戻した。
ふと私が怪魚から視線を上げる。
すると少し離れた先に翼の生えた天使の男性の像があった。
その像はそこにだけ一筋の光が差したような神々しさを感じさせる。
ガルシア王と怪魚達に気を取られて全く気付かなかった。
「ねぇ、ノーム。あの像、凄く綺麗だね」
「ん? あぁ、あれは──」
「大天使ラファエルの像だ」
「! ガルシア王」
ガルシア王がいつの間にか傍に来ていた。
大天使か。私の好みの物語の予感だ。
「ガルシア王、ラファエル様の像はどうしてこのアトランシータの傍らに建てられたのですか?」
「あぁ、それは大天使ラファエルが海を治めているからだ。大天使は四人いる。ミカエル、ガブリエル、ウリエル、ラファエル……。その中で大天使ラファエルは勇気を司り、海底のどこかにある神殿に存在するという」
へぇ、面白いお話! 他の大天使達はどこにいるんだろう。
明日にでもシュトラール城の図書室に大天使様達に関する文献がないか探してみようっと。
「──まぁ、大天使についての話はここまでだ。待たせたな我が友達よ! 今日という日を思いきり楽しもうぞ!」
そうしてガルシア王の豪勢な笑い声と共に、私達はアトランシータの城へ水竜さんに乗って戻ったのだった。
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