妖精小人を追いかけろ


 私はその日の夜、シルフさん、フォルトゥナさん、エリックさんと子供達の寝室を手分けして見張っていた。

 子供達の寝室は二部屋あって、私とシルフさん、フォルトゥナさんとエリックさんの二組に別れて見張っている。

 本当は私はシルフさんと二人きりは嫌だったんだけど、シルフさんが大人げなく駄々をこねるから……。


「なかなか来ませんね、妖精小人ピクシーさん」

「大丈夫大丈夫。僕の勘は当たるから妖精小人が現れるのはこっちの部屋だよ」


 何故か自信満々のシルフさんに何度目か分からないため息が溢れる。


「っていうかシルフさん。昼頃から今さっきまで突然いなくなっちゃってどこ行ってたんですか? 驚きましたよ。そういう勝手な行動は慎んでください」

「ごめんって。ちょっとこの孤児院周りを散歩してたんだ。そこでたまたま地下室を見つけちゃってさ」

「そこに何かあったんですか?」


 するとシルフさんは喉の奥で笑いを堪えているような仕草をする。

 「エレナちゃんは知らない方がいいと思うよ」だって。

 ……やっぱりこの人、よく分からない。


 そうして待機して三時間程経った頃だろうか。動きがあった。

 窓から蛍のような光が四つ程現れ、子供達の頭上を浮遊していたのだ。

 そして一人の男の子がゆっくり起き上がり──消える。

 私は慌てて隠れていたクローゼットから飛びだした。


「え!? 消えた!?」

「落ち着いて。妖精小人の魔力なんてたかがしれてる。廊下に出れば見つかるよ。行こう」

「は、はい!」


 部屋を出ると、シルフさんの言うとおり、男の子の後ろ姿を発見した。

 男の子は短い距離を消えては現れを繰り返し、移動していく。

 そして私達はなんとかそれを追っていき──ついに問題の森の中へ入った。


「! これが、オリバーさんの言っていた……」


 森の中に入ると、確かにうっすらと霧で周囲が曇った。

 そこで突然シルフさんの様子が変わる。


「──うっ、」

「シルフさん!? どうかしましたか?」

「っ、ち、小賢しい真似を……」


 シルフさんは忌々しそうにそう呟くと、突然消えた。

 え!? どういうこと!?

 私一人になっちゃったんですけど!? 勝手な行動は謹んでって言ったのに!

 しかし私が唖然としている間にも男の子は遠ざかっていく。

 少し怖い……でも、あの子を見捨てるわけにもいかない!

 私はなんとかそのまま男の子を追いかけていく。


 しかし──霧の中に入れば入るほど、不思議とどんどん息苦しくなってきた。


「っ、はぁ……はぁ、」


 おかしい。ただの霧のはずなのに。何故私はこんなにも苦しいのだろう。

 酷く喉が乾き、ヒュウヒュウと音が鳴る。

 ここまでくると男の子なんてすっかり見失ってしまっていた。

 どこに向かっているのさえ、頭が回らない。

 

「……か、は……」


 強い眠気が襲ってきて、ついそれに意識を任せてしまいそうになる。

 するとここで、私はハッとした。

 パパからもらったネックレスが朱の光を帯び始めたのだ。

 これって、もしかして……。


「──きゅう!」

「……、はは、久しぶりだね」


 カーバンクル。パパからもらったネックレスの宝石の妖精だ。

 どうやら今回も迷える私を導いてくれるらしい。


 いつだって、私はパパに助けてもらってばかりだと実感した。


 私は薄れていく意識をどうにか保ちながら──朱に導かれるままに進んだ。

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