子供を攫ったのは
──翌日 馬車の中にて。
「うわぁ、馬って結構遅いんだね! 僕の使い魔だったら一時間くらいで着くだろうに。でも新鮮で楽しいや!」
「…………」
「…………」
私とフォルトゥナさんは楽しそうにはしゃぐシルフさんを横目に肩を落とした。
風の勇者シルフ。
なんだか風の勇者なだけあって、つかみ所のない青年である。
しかもパパと何らかの因縁があるようで……うん、本当に謎だらけ。
ちょっと苦手なタイプだ。
「あ、そうそう。エレナちゃん。エレナちゃんは魔王とどこで出会ったの?」
「え、あー……えっと、それは私もよく知りません。でもパパの側近が言うには実のお母さんに捨てられそうだった赤ん坊の私をパパが拾ってくれたとかなんとか」
「ふーん。死にかけの赤ん坊を助けた、か。あの彼が……」
あ、また悪寒。
シルフさんはパパの話になるとどこか冷たい雰囲気を醸し出す。
やっぱりこの人……なんだか怖い。
するとシルフさんが顔が強張った私に気づき、白い歯を見せた。
「ごめんごめん! そんな怖がらないでよ。僕って考え込むと怖い顔しちゃう癖があるんだ」
「は、はぁ」
「あぁ、そうだ。エレナちゃんさぁ、シルフさんって固いよ。シルフでいいよ。お近づきの印に」
突然のシルフさんの提案に私は戸惑う。
「僕さ、人間は大嫌いだけど、君は別。興味があるんだ。汚したくなるよね、その魂」
「!?」
「なーんてねっ」
そう言って舌を出した後に一人でケタケタ笑うシルフさん。
これには私もフォルトゥナさんもドン引きである。
……あぁ、もうやだこの人!!
***
──シュトラール王国領土内 エハース村にて。
「はい、子供達が次々と消えているのは一ヶ月程前からです。一日に一人、多くて二人は必ず行方を眩ませてしまい……」
エハース村の孤児院に到着した私とシルフさんとフォルトゥナさん、そして馬を引いてくれたエリックさんの四人はさっそく孤児院へ向かった。
孤児院の院長であるオリバーさんは皺だらけの顔を緩めて、私達を歓迎してくれる。
そして子供達失踪事件についての話を詳しく聞かせてもらっていたのだ。
「それにしてもまさかあの風の勇者様がいらっしゃるとは……光栄です」
「ん~。言っておくけど、君の為じゃないよ? 僕は僕の為に行動しているだけだからさ。あ、それ以上近づかないでね。気持ち悪いから」
「え、えぇ……?」
シルフさんの物言いに戸惑うオリバーさん。
私はそんなシルフさんを押しのけて、オリバーさんに頭を下げた。
「す、すみませんオリバーさん。この人はこういう人なんです。お気になさらず。それで、今回はその子供が失踪する原因の調査というわけですね?」
「……いえ、それが……犯人は既に分かっているのです」
オリバーさんのまさかの言葉に私とフォルトゥナさん、エリックさんは声を揃える。
「──悪魔ではなかったのです! なんと犯人は、
「分かっているなら追いかければよかったんじゃないのか?」
「勿論そうしました。しかしそうすると必ず霧に捕まり、逃げられてしまうのです」
「霧……?」
するとここで孤児院の大広間の扉が開き、子供達が一斉に入ってきた。
子供達は真っ先にオリバーさんの所に集まり、ハグをして欲しいと両手を伸ばす。
オリバーさんは随分慕われているようだ。
「院長、院長! 凄く大きなどんぐりを見つけたの! 院長にあげるね」
「ほほほ。有難う。大切にしようマークス。ああティア、昨日はお手紙をありがとう。これは私からの返事だよ。コラコラ、ジャック。君は鼻をほじるな。また鼻血が止まらなくなるだろう」
あちこちから聞こえる子供達の声一つ一つに優しく接するオリバーさんに私もにっこりする。
本当に素敵な人だなぁ。
オリバーさんの為にも、この子達の為にも、私達でなんとかしなければ。
とりあえず今夜、私はシルフさん達と手分けして子供達を見張る事にした。
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