見えた光


 ──結局、アミール姫との決闘は明日になった。


 本当はアミール姫は今すぐの決闘を望んでいたようだけれど、ノームがそれを許さなかったのだ。

 ノームはその後、私に必死に話してくれた。

 彼女は身体強化魔法の天才で、軍事力を誇るエストレラ王国の兵士にも引けを取らない程の実力を持つのだと。

 対して私にあるのはサラマンダー王子曰く馬の鼻くそなへっぽこ魔法だけ。おまけに戦う才能もない。

 かといって決闘に負けたら、ノームがあの人と結婚しちゃうし、テネブリス進軍への大きな一手を与えてしまうことにもなるというわけだ。


「お前は馬鹿か! 何を考えている! あんなの、罠に決まっているだろう!」


 ……はい、ご覧の通り、只今私はノームに説教され中。

 ノームが私を本気で怒るなんて珍しい。

 私はノームの部屋で正座させられていた。

 傍らにいるイゾウさんもそんなノームの迫力に何も言えないでいる。


「エレナ、エストレラ王国の決闘はな、相手が戦闘続行不能状態になるまで終わらない! 降参を申し出ても却下されるのだぞ!? 万が一お前に何かあったら余はどうすればいい!? ああもう、本当に馬鹿!」

「ご、ごめんなさい……」


 私は両肩の間に頭を沈めた。


「でも私、反省はしてるけど、後悔はしてないよ」

「!」

「アミール姫、こうでもしないと絶対これからもノームに付きまとう気満々だったじゃん。それに私は、ちゃんとノームを愛してもいない人に負けたくなかった。ノームは皆の前で私を愛してるって応えてくれたでしょ? なら、私もそうしたかったし……凄く、嬉しかったから……」

「エレナ……」


 ノームの頬が薄く色づく。

 しかしその時だ。ノックが聞こえた。


「失礼します」

「あ、フォルトゥナさん……にサラマンダー王子!?」


 意外な客に驚く私とノーム。

 サラマンダー王子は鼻で笑う。


「随分説教されているなへっぽこ魔女。まぁそれもそうか。お前は明日アミール姫に相当痛めつけられるだろうからな。明日は笑いすぎて腹が捩れないように気をつけるとするさ」

「サラマンダー、エレナを侮辱しにきたのなら今すぐここを去れ。エレナは未来の王妃だぞ」


 ノームがサラマンダー王子と対面し、睨み合う。

 当の私はどこ吹く風でサラマンダー王子の嫌味に何も思わなかった。

 ルナの一件でサラマンダー王子が私をフォローしてくれた時から、どうも私はサラマンダー王子に腹が立たなくなったのだ

 これには自分でも驚いている。


「ノーム、サラマンダー王子にとっては挨拶みたいなものだよ。落ち着いて」

「! エレナ、お前やけに大人しいな」

「まぁ、サラマンダー王子には一応恩がありますから。ええと、王子? 今日はどうしてここに?」

「……ふん、兄上の言うとおり、お前の間抜け面を見に来ただけだ。まぁついでに、あまりにもお前が可哀想だし、一瞬で終わってもつまらんし……ハンデをくれてやる」

「ハンデ?」


 するとやけににこにこしたフォルトゥナさんが話し始める。


「サラマンダー王子は先程アミール姫に、エレナ様の道具の使用を許可するようにお願いしたのですよ。アミール姫は快く引き受けてくれました。これでエレナ様は武器の使用が可能です」

「! サラマンダーが? どういう風の吹き回しだ。貴様、何を企んでる!」

「兄上は俺を疑いすぎなんだよ。ただ単純にこいつの足掻いている様を見たいだけだ。それに……父上の思い通りにいくのも癪だしな」


 え? サラマンダー王子ってヘリオス王の事あんまり好きじゃないのかな。

 ちょっと意外かも。

 まぁとにかく、サラマンダー王子は私が少しでも有利になるように働いてくれたのは事実だ。


「ありがとうございます、サラマンダー王子。おかげでちょっと活路が見いだせました!」

「──っ、」


 私が微笑すると、サラマンダー王子は石になる。

 するとノームが少しむっとしながらサラマンダー王子から私を遠ざけた。


「まぁ、エレナをサポートしたのは認めよう。余からも礼を言うぞサラマンダー。エレナは余のエレナだからな! 余の! エレナだから! 礼を言おう」

「ノーム声が大きいよ。急にどうしたの……」


 私はふとあることを思いつき、テネブリスから持ってきた鞄を漁る。

 そして小さな巾着袋を取り出した。


「エレナ様、それは何でしょうか」

「うん、これは……って、フォルトゥナさん? さっきから気になってたんですが、どうして私に様付けなんですか?」 

「ふふふ。エレナ様は未来の王妃ですからね」

「どちらにしろ?」

「おっと失礼。口が滑りました。気にしないでください。私がエレナ様とお呼びしたいのです。お気になさらず」

「は、はぁ……まぁ、そういうことなら……」


 変なフォルトゥナさん。

 私は不思議に思いながらも巾着袋の中にあったを手のひらに転がした。


「明日の決闘は相手を動けなくすれば勝ち。そして道具は使っていい。ハンデっていうのは気に食わないけど、これしか方法はないしね。もう手段は選んでいられない!」

「何か策でも?」

「うん、サラマンダー王子のおかげでなんとかなりそう」


 ノームとサラマンダー王子、フォルトゥナさんが興味津々で私を見ている。




「──ありがたく力を借りるよ、ドリアードさん」

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