決意!


「……なっ!? なななな!?」


 ヘリオス王も、その両端にいた側近の男の人二人も、周りの従者達も……皆が口を閉じることを忘れてしまったようだった。

 ノームとイゾウさんが嘆息と共に頭を抱えている。

 そんな二人に私は我に返って、また自己嫌悪。


「ご、ごめんノーム……わ、私ったらつい……また迷惑をかけちゃった……」

「いや、むしろこうやって強引に行かなければ父上はもう目を覚まさないのかもしれん」


 突然の私の言動に混乱する玉座の間。

 ヘリオス王はわなわなと震えている。


「エレナ……魔王の、娘……」

「っ! 貴様は!!」


 するとサラマンダー王子が私の方へズカズカ大股で突き進んでくる。

 ノームが私を守るように腕を伸ばした。


「覚えているぞ!! 六年前、俺の頬を打った女だな!」

「あぁ、あの冒険家の本にあった娘ですか……どこかで聞いたことがあると思ったら。確かに本の通りの見た目をしておりますな」


 ピンと真っ直ぐに伸びた黒髭が特徴の側近の一人がヘリオス王にそう囁いた。


「な、なんだと……? ノーム、貴様! まだその女と交友していたのか!」

「…………、」


 ノームは私をチラリと見ると、いきなり私の腰を自分の方へ引き寄せた。

 ぐっとノームの身体に密着し、混乱する私。


「父上。一つ伝えておかねばならないことがあります。余は……余が各々の姫君からの婚約を断り続けているのは、既にこの心は余のものではないからです。 余は、エレナを愛している。故に、余はこのエレナと将来結婚します!」

「──はぁ!?」

「な、ななななな何言ってんのノーム!」

「もうこの際全て明かしてしまおうと思ってな。これで堂々と闘えるさ」

「私も私もだけど、ノームもノームだよ、もう……」


 ヘリオス王が玉座からずり落ちるように立ち上がり、よろよろとその周辺を歩き出す。

 居ても立ってもいられないってやつだろうか。

 そして酷く困惑した様子で目を泳がせた後──私を指差した。


「──殺せ」

「っ、」

「殺せ! 今すぐに! あの女を、殺せ!! 魔女だ! 魔女が、我が国の王子を誑かした!!」

「父上、」


 するとその時だ。

 王の側近の一人、白髪でもう一人の側近よりも若く綺麗な側近の人が宥めるような声で話し始める。


「王よ。少し落ち着いてください。彼女が本当に〝魔王の娘〟であるならば、慎重に。まだテネブリスへの進軍の兵士は十分に集まっておりません」

「で、では、この女をどうしろというのだ」

「……魔王の娘よ、其方の目的は我が国の進軍を止めること、だったな?」

「え? あ、はい!」

「では、様子を見てみるのはどうでしょうか王よ。テネブリスと戦わずに済むのならそれに超したことはない。それにこの娘の言動からしておそらくこの娘独断でこの国に来たと思われます。人質としての価値もあるやもしれません」

「う、うむ……」

「お待ちください。一つはっきりさせておきましょう。テネブリスは危険ですぞ王よ。現に魔法生物達の活動が活発になってきているのは……」

「スラヴァ! お前は黙っていろ。お前は必要以上に王の恐怖を誘い、魔族との戦争を煽っているようにしか見えない!」

「おやおやフォルトゥナ、相方を陥れるような言い草は止めていただきたいものですな」


 性格の違う二人の側近に挟まれながら、うんうん悩むヘリオス王。

 なるほど、ヘリオス王はあの側近二人の意見に流されがちなのかも。

 あの二人のどちらかが味方になってくれるといいのだけど……可能性があるのは白髪のお兄さんの方かな。


「──エレナ、貴様の話を受け入れるかどうかは検討しておいてはやろう。我の命令に逆らわない限りはこの城に置いてやる」

「っ! あ、ありがとう、ございます……」

「ただし、我から用事がない時は常に地下牢の中にいろ。変な真似をすれば、即追放とする」

「エレナを、檻の中にだと……!? 父上、それは余が許さない!」

「いいえ、ノーム。これでいいの」


 私は口角を上げる。

 ヘリオス王が怯えるように少し首を仰け反らせた。


「この城に置いてもらうだけで上出来。私は、必ずヘリオス王を説得してみせる!」

「ぬ、ぬぅ……我には魔女の惚れ薬など効かんからな!」


 これは一歩だ。

 パパとの約束を果たすための。

 この頑固な王様をどうにかして説得させてみせる……!

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