消えた光
テネブリスが見えた頃には、辺りはうっすらと明るくなっていた。
早朝を感じさせる冷気に子供達の身体が震える。私は事前に用意していたマントを子供達に渡した。
「ところでアイム、誰に攫われたの? あの太った人間の男の人?」
「う、ううん。それがよく分からなくて……かくれんぼ、ルーメンだけなかなか見つからなかったから三人で一緒に探してたの。そして図書館の前に行ったら突然眠くなって、気付いたら、檻の中に……」
「変な首輪はめられてて、凄く怖かった」
「周りの人達から十何年もあそこに閉じ込められているなんて話を聞いて、俺、¥もう一生あそこから出れないかもしれないって思ったよ!」
とにかく、三人が無事でよかった。
……でもここで、私の頭の中に一つの疑問が浮かんだ。
マモンさんだ。
三人は無事だ。だからルーメンは三人を食べていない。
──マモンさんは、どうしてルーメンが三人を食べたなんて言ったんだろう?
私は口をきゅっと結んで、近づく魔王城から目を離さなかった。
魔王城の中庭に降り、近くにいたゴブリンさんに迫る。
「パパは!? パパはどこ!?」
「ひっ! ぎょ、玉座の間に、おられます!」
「OK、ありがとう! 皆、私についてきて!」
テネブリス探検隊の皆を連れて、玉座の間に飛び込んだ。
玉座の間では、城の魔族の人達が集まっている。
「──パパ!!!」
皆の視線を感じた。パパは私の名を呼ぶ。
そして、私の背後に皆の視線が移った。
「──三人とも生きてるよ! ルーメンは何もしていない! ただ、誰かに利用されてただけなの!」
玉座の間にいた魔族の人達がわっと一斉に騒ぎ出す。
その中から、オリアス、アイム、シトリの両親が一目散に駆けてきて、各々の子をそれは強く抱きしめた。
今回の件を受けて、辺境の村から魔王城に連れてこられたらしい三人の両親はどれほど絶望を感じていたことだろう。
……よかった、本当に。
「……エレナ、お前……また黙ってテネブリスを出たのか」
気付けばパパが目の前にいた。
私は口角を上げる。
「一刻を争ったの。今回は特別に許してくれるよね? パパ」
「……そうだな。有難う、エレナ」
パパが私の頭を撫でる。私はそのパパの手をそのまま引っ張った。
「それより!! ルーメンを迎えに行こう!!」
「あぁ、そうだな」
あぁ、ルーメン、早く会いたいよ。
私は顔が緩んでしまうのを押さえずに、地下牢へ全力で走った。
もう大丈夫なんだよ! ルーメンはちゃんと無実だって証明したもん! また一緒に暮らせるよ!
大きくなっちゃったけど、甘えん坊なのは変わっていないから思い切り抱きしめてあげるんだ!
──そう、思ってたのに。
「なに、これ……」
地下への入り口の前で、番人であるシャックスさんが血だらけで倒れていた。
息はあるけど、このままじゃ……。
するとアムがシャックスさんを横抱きした。アムは真剣な顔つきだ。
「魔王様、ルーメン様を」
「あぁ」
「っ、」
そうか、シャックスさんに何かあったってことは……ルーメンが!!
私は地下の階段を滑る様に降りた。
何も考えられなくなる。
ルーメンに何かあったら、私は……!!
「はぁ、はぁ、はぁ……」
──私は、地下牢の前で、そのまま両膝をついた。
地下牢の中には──光はなかった。
私の弟も、なにも、いなかった。
監視していたはずの目玉お化けさんは気を失っているのか、壁から引っこ抜かれて身体を晒したまま、動かない。
「ルーメン……」
私は何故か鍵の開いている地下牢に入り、本当に何もないのか手探りで探した。
「ルーメン、ルーメン……どこ、どこにいるの?」
そこで、私はルーメンが蹲っていた部屋の隅で一つの紙を見つける。
【えれなへ
やりたいことができた。かならずエレナのところにもどってくるからまってて。
るーめんより】
これは、ルーメンの字だ……。
やりたいことって……何?
ルーメンは一体、どこに行ったの?
「エレナ、」
パパの声が降ってきた。鉄格子越しにパパと目が合う。
私は、ポロポロ涙が出てくるのを止められなかった。
「パパ……」
「…………!」
「──ルーメン、どこかに行っちゃった……っ」
──この後、私は必死に城中を探した。
でも、ルーメンは、どこにもいなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます