邂逅と逃走
「お前、誰の許可を経て王族である俺の前にいる。その小汚いマントも捨てろ」
「お、王族……?」
「声からして、女か。顔を見せろ」
「っ、ちょ!」
強引にフードを引っ張られ、私は必死に抵抗したがあっけなく頭を晒された。
男の子と、しっかり目が合う。
「────、」
男の子は私の顔を見るなり、動きを止めた。
や、やばい! フード、脱げちゃった!
……って、ことは。
「あぁー!」
奴隷商人が私を指差して声を上げる。私はオリアス達を背に、奴隷商人を睨みつけた。
「お前! あの時のクソガキ!」
「……アンタみたいな最低な人間と、私も再会したくなかったよ! 何故オリアス達がここにいるの!? アンタが魔王城から攫ってきたの!?」
「……ははぁ、そうかそうか。お前はこのガキ共を助けにきたのか。こいつは予想外だ。
「おい、商人。この女は誰だ」
「はい、
アレックスさん、冒険記出してたんだ。
サラマンダーと呼ばれた男の子がそれを聞くなり、その
そして面白い玩具を見つけた子供のように笑った。
「魔王の娘、エレナか。確かにあの本に出てきたな。父上はあの冒険記を読んで発狂していたが。本にある通り、なかなか美しい金髪に……生意気なほどに真っ直ぐな黒い瞳。はは、面白い」
サラマンダーが私の顔面に手のひらを掲げる。
私はその行動の意味が分からず眉を顰めた。
……というか、サラマンダーってどこかで聞いたことがあるような。
「お前、
「サラマンダー、やめろ!」
ノームが素早く私を守るようにサラマンダーの前に立ち塞がる。
あ、そうか。サラマンダーって、ノームの弟の名前!
「……兄上」
「こいつに何かしたらただでは済まさないぞ」
「何故兄上がその女子と一緒にいる。しかもこんな時間に、こんな場所で」
空気がピリピリ張りつめていた。
いや、二人ともまだ十代前半(サラマンダー王子の年齢は知らないけど)なのによくそんな怖い顔出来るね!?
「エレナは、余の大切な友人だ」
「はは、魔族の姫とシュトラールの王太子である兄上が友人? 父上が知ったらどう思うだろうな」
「言いたければ言えばいい。サラマンダー、お前もどうしてこのような時間に、このような場所にいるのだ」
「第二王子は暇なんだよ。十歳の子供らしく
「お前、」
「どうした兄上。何故そんな怖い顔をする。兄上も俺も勇者だ。魔族を滅ぼす為の存在だろう。魔族は敵だ。敵の為に何故怒る」
「…………、」
そうだ、ノームは勇者だ。
いつか、パパを殺す為にテネブリスに進軍してくるはずの存在だ。
「……勇者ではない。強奪者の、間違いだろう」
ノームが絞り出したような声でそう言う。
サラマンダー王子がそれを聞いて、腹を抱えて笑い出した。
「おいおい兄上、何言ってるんだ? どれだけ魔族に染まっている!? ははは、明日の夕食が楽しみだよ。父上はどんな顔で俺の話を聞いてくれるだろう!」
「っ、」
「ああ、そうか。兄上は俺達と一緒に夕食は食べないんだったな。悪いことを言った。すまない兄上」
そういえば、前……ノーム、お父さんと一緒にご飯食べさせてもらえないって言ってたっけ……。
あとこいつ今、魔族のことを玩具って言った。
私は拳を握りしめる。
……もう、我慢できるか!
勢いのある気持ちのいい音が辺りに響いた。
奴隷商人が私を指差して、腰を抜かし震えている。
「……っ、なっ」
「──さいってい、」
サラマンダーが頬に触れ、唖然としていた。
頬を打たれたのなんて初めてだったんだろうな。王族だし。
いくらノームの弟でも魔族とノームを馬鹿にするのは許せない。
「兄弟なのにどうしてノームをそんなに目の敵にするの! 信じられない! あと、魔族はアンタの玩具でもなんでもない! アンタと同じで呼吸もしてるし、感情もあるし、ちゃんと生きてるよ! 支配していい命なんて、この世どこにも探しても存在しない!」
サラマンダーはやっと頬を打たれたことを実感したのかすぐさま唇を噛みしめ、顔を歪める。
「貴様っ!! 王族の俺に、今、何をしたぁっ!」
「──イゾウ!! 斬れ!!」
ノームの叫びと共に、カラカラと鉄格子が崩れる音が背中から聞こえた。
振り向くと、オリアス達の檻の鉄格子が見事に斬られており、オリアス達もキョトンとしている。
檻の前にはいつの間にかイゾウさんが立っていた。
そしてイゾウさんはオリアス達の首輪も三人を傷つけないように斬ってくれた。
ノームが私の肩を掴む。
「エレナ、逃げろ! ここは余がなんとかする! 外で隠れているレイに乗ってすぐにシュトラールを出ろ! 一刻も早くルーメンの疑いを解くんだ!」
「ノーム、でも……」
「早く行け!」
ノームに怒鳴られ、私はやっと頷いた。オリアス達の手を握って、その場を離れる。
周りにいた魔族達の声を振り切って、私は店の出入り口へ速さに気を付けながら走った。
「な、なんだガキ!! そいつらは商品だぞ!?」
ドアの前にいた番人の男が鬼のような顔で私に襲い掛かってくる。
私はへっぽこ魔法でどうにかしようとしたが、その前に店のドアが開いた。男がドアから伸びた太い腕に外へ投げ飛ばされる。
突然の展開に驚いていると、ドアの外からゴーレムが顔を覗かせ私に親指を立てた。
……あ、この子、ノームのゴーレムさんだ!
「ありがとう!!」
私はゴーレムさんに頭を下げて、すぐそこで待っていてくれたレイに子供達を先に跨らせ、自分も乗る。
外で待機していたらしい数人の小さなゴーレムさん達が宿屋の中に入っていくのを見ながら、飛んだ。
私を助けてくれた大きなゴーレムさんが私に手を振ってくれる。
「ありがとう!! 本当に、ありがとう!! ノームにも伝えて!」
私はそう言い残し、シュトラール王国を飛び去った。
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