発見


 ──シュトラール王国 とある廃宿屋前にて。


「ここに、子供達がいるのか?」

「うん、カーバンクルが視せてくれたの」


 今は夜中なので、辺りは真っ暗だ。

 シュトラール城でイゾウさんと合流してから、私達は例の場所に向かった。

 そこは、王国の城下町の隅の方にある廃れた宿屋。この中に、テネブリス探検隊がいる!


「エレナ様の話が本当だとするなら、この中は……」

「うん。本当だよ。三人とも、檻の中に入って、をはめられてた」

「……と、なると。まずはやはりとして入った方がいいな」


 ノームがもしもの為にと身につけていたマントを脱ぎ、私に渡した。


「エレナ、お前はバレないようにこれを被っていろ」

「わ、分かった」


 しっかりフードで頭を隠す。それを見届けたノームは宿屋の入り口をノックした。

 しばらくして──ドアが開く。

 片目が傷で潰されている巨体の男が現れた。

 男はノームを見るなり、両頬をぎゅっと掴み驚く。


「!? え、えぇ、あ、あぁ……? ノーム、様……!?」

「余は客だ。……入れてくれるな?」

「へ、へい!」


 しかし男はノームの後ろにいる私を怪訝そうに見つめる。

 やばい、怪しまれてる? ど、どどどうしよう。


「おい、余の連れにケチをつける気か?」

「っ、い、いえ。ど、どうぞ」


 私は心の中で胸を撫で下ろす。

 するとノームが優しく私の手を自分の手で包んだ。

 気付けばノームの唇が、私の耳元に近づいてきて──。


「大丈夫だ。余に任せろ。エレナは必ず余が守る」

「っ、」


 私は一気に顔が熱くなる。

 か、カッコよすぎる……。って、ときめいている場合じゃない。気を引き締めないと。

 テネブリス探検隊あの子達を、助けに来たんだから。


 廃宿屋の中に入ると、鮮やかな絨毯の上に色んな大きさの檻が並べられているというどこか奇抜な光景が広がった。

 そして違和感を覚えるほど天井が高いし、室内が広い。外から見たときはこんなに広くなかったはずだ。

 これって、空間魔法?

 檻の中には様々な種族──魔族の人達が、いた。

 そう。


 ここは──らしい。


 魔族の人達の憎しみのこもった視線が痛い。

 シャックスさんも、ついこの間までこんな所にいたのだ。

 全員助けてあげたいけれど……ごめんなさい、今は、今だけは、どうか許して。

 罪悪感で唇を噛みしめる。奴隷達は城の魔族の人達とは違う恐ろしい目をしていた。


「エレナ、とりあえず子供達を探すぞ。どの辺りか分かるか?」

「う、ううん。この宿屋の外装と、檻に入れられて泣いているオリアス達しか視えなかった……」

「分かった。イゾウ、別れよう。余はエレナについている。ラミア族、吸血鬼、ドワーフ。この三種族の子供を見つけたら知らせろ」

「承知しましたノーム様」


 イゾウさんと二手に分かれ、オリアス達を探す。

 私はノームに手を引かれるまま、焦る気持ちを押さえて檻を流し見ていった。


「この店、凄く広いね」

「あぁ。全部周るのに二時間はかかるかもしれないな」

「チラホラお客さんもいるみたいだし……早く見つけてあげないと」


 なんだか、息苦しい。視線が怖い。檻の中の魔族の人達の、目が、恐い。

 これが恨み。これが憎しみ。あぁ、本当に、ごめんなさい。

 なんだかどんどん視界が歪んでくる。

 ノームが、そんな私に気づいたのか、足を止めた。


「エレナ?」

「ねぇ、この人達全員、助けてあげられないかな……」

「…………」

「ほ、本当は、魔族は皆、みんな、いい人なんだよ。私達人間が、こういう怖い目を彼らにさせてるんだよね……」


 人間が、彼らを“恐ろしい魔族”にさせている。


 ノームが私に言葉を返そうと口を開いた時だ。

 微かに、声が聞こえた。

 

 私は──耳に、集中する。


「……声、」

「エレナ?」

「聞こえた。オリアス達の声! この近くにいる!」


 するとそこで、何かが強く叩かれたような高い音が聞こえた。

 これは……。


「鞭の音だ、」


 私はたまらず、走り出す。そしてついに見つけた。

 オリアス達は一番壁際の檻に三人一緒に入れられている!

 そんなオリアス達の前には、紅色の髪が目立つ私と同い年ぐらいの男の子とあのシャックスさんを従えていた小太りの奴隷商人がいた。

 もしかして、この店ってあいつの店!?

 私は檻に鞭打つ奴隷商人の背中に思い切り体当たりをし、怯んでいる間にオリアス達の檻に手を伸ばす。


「──オリアス、アイム、シトリ!!」

「っ、この声は……」

「た、隊長!!?」

「エレナ!!」


 オリアス、アイム、シトリ。三人はちゃんと生きていた。

 やっぱり、ルーメンは化け物なんかじゃない!

 三人とも、涙と鼻水で顔がぐちゃぐちゃだ。

 余程怖い思いをしたんだろう。


「大丈夫? どこか、怪我してない? 待ってて、すぐに出してあげるから!」

「おい」


 冷たい声が降ってくる。

 私が、振り向くと──奴隷商人の傍にいた男の子が私を見降ろしていた……。

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