エレナとルーメン、シュトラール王国へ行く④
「ほっほっほっ。サラさん、収集に来ましたよ。さっさと残りの返済をお願いします」
「アンタか。アンタが色々邪魔してくれてるおかげで、生憎ウチには一銭もねーよ!」
「おや? なんのことでしょうかねぇ……」
ねっとりした
しかしそんな男の後ろには──二メートルは高さのあるリザードマンが立っているではないか。
リザードマン。人型のトカゲの姿を持つ種族だ。竜人とは違って、変身する能力はないという。
そんなリザードマンが私達を見下ろし、威嚇するように声を上げている。
「──はぁ。それでは仕方ありませんねぇ。ここから出て行ってもらいましょう。借金が払えないのであればこの宿屋は私がもらい受ける。そういう約束でしたからねぇ」
「待て」
ノームが男の前に立ち塞がった。
男は顎が外れるのではないかというくらい、口をあんぐり開ける。
「の、のののののノーム様ぁ!!? な、なんあななな!?」
「要するに金があればいいのだろう。余が出そう。その代わりもうこの宿屋には手を出すな」
「は、はぁ。まぁ、金を払ってもらえるならこの際どうでもいいですが……」
「待って、ノーム。この人にお金を払っちゃ駄目!」
「! エレナ?」
「この人、集めたお金で悪いことしようとしてるもん」
男がギクリと身体を揺らす。
私はルーメンをイゾウさんに預け、リザードマンを見上げた。
『あなたの言葉、分かるよ』
そう竜語で話すと、リザードマンは目を見開かせる。
──実は先程から、このリザードマンは唸っているのではなかった。
竜語で必死に助けを求めていたのだ。
自分は奴隷で、この男に逆らえないと。この男は奴隷商人であり、酷い扱いを受けていると。
リザードマンさんが操られているのは……きっとあの首輪のせいね。
「イゾウさん。あの首輪、切れる?」
「! かしこまりました」
ひゅっと耳元で何かが通り過ぎたと思えば、リザードマンの首にあった首輪が真っ二つになっていた。
え!? もう切ったの!? 見えなかったんだけど!?
するとそれに気づいた奴隷商人が頭を鈍器で殴られたような顔になる。
「!? ひ、ひひひひ人の商品に何をしてるんだ!!」
「っ、」
奴隷商人は一番近くにいた私に襲い掛かってきた。
しかし。
「あつっ! あつっぁあぁぁ!」
「っ!? 燃えてる?」
──そう。奴隷商人のお尻が燃えていたのだ。
奴隷商人はそのまま水を求めて、叫びながらどこかへ走っていった。
い、今のって……魔法?
「──
「!? アス? どうしてここに」
なんと私の背後にはアスがいた。アスは人間が大嫌いだから、人間の国にいるはずないのに!!
「そんなこと、ガキンチョが知らなくていいのよ。魔王様が突然いなくなったアンタを探してるって伝言があってね。アンタがここにいるなんて知ったら心配で爆発するわよきっと」
「い、言っておくけど、今回シュトラールに来たのは故意じゃないからね!? ルーメンが、」
「はいはい。言い訳は後で聞いたげるから行くわよ。あぁ、そこのちびっ子王子。うちのプリンセスが世話になったわね」
「ち、チビ!?」
ノームがむっとしてアスを睨む。アスはそんなノームにせせら笑った。
イゾウさんがアスから目を離さずに刀に触れる。
「私の主をそれ以上侮辱すると切りますよ」
「おー、怖い怖い。なに、やる気なの」
アスの顔がみるみる皮が剥がれ、竜のそれへと変化していく。
私はすぐにそんなアスを止めた。
「アス、アス! 駄目だって! もう帰ろう!」
「……ふん」
アスは最後にアスを見たまま
「ジロジロ見てんじゃないわよ!!」
「っ、」
「コラ、アス! そんな事言わない! あ、ノーム、イゾウさん、サラさん! 今日は本当にお世話になりました。また来るね!」
「エレナ、そいつに任せて本当に大丈夫なのか?」
「うん。アスは信頼できる竜人だからね。アスに乗って帰ることにするよ」
そして私は唖然としているリザードマンに視線を移す。
あ、忘れてた。この人どうしよう。
「えっと、リザードマン、さん?」
「!」
「私、今からテネブリスっていう魔物の国に帰るんだけど、一緒に来る?」
「!!! い、いいん、ですか……?」
「うん。おいでおいで。アスの背中広いから多分乗れるよ」
「ちょっと、勝手に決めないでよね」
リザードマンさんは私の言葉に感極まって泣いてしまった。余程解放されたことが嬉しいらしい。
アスが「何よあいつ」と呆れている。
「この人は今まで奴隷だったリザードマンさん。アスがやっつけてくれた男の人は奴隷商人だったんだ」
「! ……そう。もっと痛めつけるべきだったわね」
アスが殺意をこめてそう呟いた。
……あぁ、そっか。アスは……。
──結局、そのまま私はノーム達を別れてアスと一緒にテネブリスへと帰る。
リザードマンさんの名前はシャックスさんといい、これから魔王城で働いてくれることに決まった。
あと、今回勝手に城から出たのはルーメンの魔法によるものだったから、パパにあんまり怒られなかったのも幸いだ。
今回の件で私が一番嬉しかったのは──ルーメンだ。
ルーメンは私があの奴隷商人とぶつかったとき、奴隷になっていた魔族の人達の声を秘められた力で感じ取ったのだと私は思う。
だから、私をあの場所に移したのだ。私がサラさんに行くなと止められた方向にあったのは、シャックスさんの声が聞こえてきたことを踏まえ、あの奴隷商人のアジトだったんだと思う。
ルーメンはきっと奴隷になっていた魔族の人達の声に応え、どうにかしたいと思ったから私をあそこに移動させた。
……まぁ、これは私の妄想だから本当かどうか分からないけど。
でも、多分そう。ルーメンは優しい子にちゃんと育ってるんだと思うんだ。
今日はシュトラール王国の事を沢山知ったし、イゾウさんやサラさんにも出会えたし、素敵な日だった。
次はパパの許可をもらってからシュトラール王国に行くことにしよう。
……もうしばらくは、その許可をもらうのも難しそうだけれど。
***
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