エレナ、隊長になる
──とある日 禁断の森にて。
「エレナ、熱はもう大丈夫なのか?」
熱を出して倒れてから数日経ったある日。
私はドリアードさん、ニクシーさんと巨大な葉でできたハンモックでお昼寝をしていた。
レイは私達の傍で、捕まえたレッドキャップを舐めたりつついたりして遊んでいる。
「もう、ニクシーさん、それ何億回も聞いた! だーいじょうぶだって!!」
「し、しかし……心配になってしまうだろう!? エレナが倒れたと聞いた時、妾達は気が気でなかったんだぞ!?」
「二クシーさんは過保護すぎるの。私はこの通りピンピンしてるんだから。ね? ドリアードさん。……ドリアードさん?」
返事がなく、そちらに目を向けるとドリアードさんは何やら考えた様子で私の顔をじっと見つめている。
「ど、ドリアードさん? どうしたの? 私の顔に何かついてる?」
「いや、先程からこの森に侵入してきた者どもが三人いてな。しかし追い払うにしろ、せっかくエレナが遊びに来てくれているのでここを離れたくないし、しばらく様子を見ようと集中していた」
「えぇ、大丈夫なの? それ」
「魔族の子供のようだ。このまま帰ってくれるといいが……む、まずいな」
ドリアードさんが立ち上がる。
どうやらその子達は大蜘蛛に見つかってしまったらしい。
「えぇ!? すぐに助けに行かなきゃ!?」
「あぁ、幸いここから遠くない!」
ドリアードさんに連れられるまま、私は森の中を駆ける。
それにしても魔族の子供達が禁断の森なんかに何の用なんだろう?
するとようやく怯える子供達の叫び声が聞こえてきた。
「──ここか!」
私の目に、大蜘蛛の糸で身体をまとめて拘束されている三人の子供達が飛び込んでくる。
見たところ、ドワーフ、吸血鬼、ラミア(上半身人間、下半身蛇の種族)の子供達のようだ。
「コラー!! 大蜘蛛! その子達を食べるのは駄目! さっさと離れなさい!!」
「……!?」
大蜘蛛は私とドリアードさんを見ると、動きが止まった。しかし逃げるかどうか迷っているようだ。
そこでレイが私の後ろの茂みから顔を出し、大蜘蛛を威嚇する。
まさか幻獣の王であるドラゴンが出てくるとは思ってなかったらしい大蜘蛛はすぐに素早く去って行った。
私はすぐに子供達の糸を解きにかかる。へっぽこ炎魔法で火の玉を出し、蜘蛛の糸を炙ったのだ。
すると蜘蛛の糸は乾いて千切りやすくなった。
実はこれはドリアードさんから教えてもらった裏技だ。
私の炎魔法がへっぽこだから子供達を傷つけなかったのも幸いだった。
……ちょっと複雑だけど。
「大丈夫? わっ!?」
蜘蛛の糸を解くなり、子供達が私に抱きついてくる。
余程怖かったのだろう。三人とも、身体がとても震えていた。
なんとか安心させてあげないと……。
私はそんな子供達の身体を両腕で包んだ。
「もう大丈夫だよ。怖かったね」
「う、うぅ……もう、死んじゃうかと……ありがとう、ありがとう……
「……ん?」
──え? 隊長?
***
「──じゃあ皆はケサランパサランを探しにきたのね?」
「うん!」
なるほど。大体の状況は掴めた。
この三人の魔族の子供達は見つけたら幸せになれるというケサランパサランを探す為に禁断の森に来たという。
ケサランパサラン、前世でもあったなー。たしか、たんぽぽの綿毛みたいなものだったような。
ちなみにこの子達の名前も教えてもらった。
ドワーフの元気な男の子、オリアス。
ラミアのしっかり者の女の子、アイム。
吸血鬼の甘えん坊な男の子、シトリ。
──私はこの子達に今の一件で随分懐かれてしまったようだ。
「俺が作ったからほんとは俺が『テネブリス探検隊』の隊長なんだけど、助けてもらったからな! 恩返しに特別にエレナを隊長にしてやるよ!」
オリアスは指で鼻の下を擦りながら照れくさそうにそう言った。
アイムとシトリも賛成の意を示す様に拍手をする。
……こう持ち上げられてしまっては私も断れない。
「そ、そうなのね。OK。とっても楽しそうなんだけど……まずはオリアス、私の髪を引っ張らないで! アイムは私の足に巻き付かない! シトリは私の腕を噛もうとしない!」
「私、人間の足初めて見た! すっごい素敵だわ!」
「隊長の血、美味しそう……」
こ、この子達、種族がバラバラなこともあってか結構個性強い。
オリアスは私の髪でブランコを作ろうとするし、アイムは私の足をまじまじと観察しているし、シトリは私の腕を甘噛みして何やら怖い事を呟いている……!
「我もエレナに全力で甘えたーい」
「妾も。いいなぁ、
「ど、ドリアードさんとニクシーさん! 羨ましそうな顔してないで助けて!!」
──そうして、翌日から私はこの三人の子供達のケサランパサラン探しに付き合ってあげることになったのだった……。
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