パパのやきもち
「な、なんか」
つんざくような雷の音で目が覚めた。私は慌てて部屋の窓から顔を出す。
テネブリスはいつも曇りで、雷が鳴っている事も珍しくはない。
しかし──今日は一段と──。
「雷、激しくない?」
テネブリスの天気はパパの魔力によって左右されている。
……と、いうことは。
「まさか、パパに何かあった……!?」
私は寝起きのまま、玉座の間に駆けた。
パパは──いつものように玉座に座り、テネブリスの住民の話を聞いている。
「パパ!!」
「……エレナ。おはよう。どうかしたのか」
「どうかしたのはパパの方よ!! 体調でも悪いの!? 天気がすっごく悪いんだけど!?」
「? いつも通りだろう」
パパはこてんと首を傾げた。そんな可愛らしい仕草をする魔人はきっとパパだけだろう。
私もつられて首を傾げる。
「えっと、そうかなぁ」
「あぁ、いつも通りだ」
「う、うーん。ならいいけど」
「そういえばエレナ。あの人間の少年は今日は来ないのか」
「え? あ、うん。多分この天気じゃ流石にレガンでも飛べないだろうし、今日は来ないんじゃないかな」
「そうか。ならば、朝の準備が整ったらここに座るといい」
パパが指さしたのはパパの膝の上だった。
私は「うん?」と不思議に思いながら、身なりを整えて──パパに抱き上げられ、膝の上に座った。
パパは私の頭を撫でながら、テネブリスの住民からの声を静かに聞いている。
……今日のパパ、やっぱりなんか変??
膝から降りようとすると「駄目だ」ときっぱり言われた。
な、なんなの……。
それからずっとパパは私を離してくれなかった。
痺れを切らせた私は「トイレ」だと言って強引にパパの膝から飛び降りた。
「きょ、今日のパパ、やけに頭撫でてくるし……どうかしたのかな」
私は少しぐしゃぐしゃになった自分の金髪を整える。
すると名前を呼ばれ、振り向けば先ほどまでパパの後ろにいたはずのアムがいた。
「アム?」
「少々言いにくいのですが……毎日あの人間の少年と会うのはやめていただきたい」
「えぇ? どういうこと?」
「あぁ、いや……その、別に私が人間を嫌っているという私情とは別の話でございます。なんというか、その……ま、魔王様が……」
「パパが?」
私がアムを問い詰めると、アムは目頭を押さえる。
「どうやら、エレナ様が……人間の少年といる時間が増え、魔王様といる時間が減ったので……その、あまりいい気分ではないようで……。それに城の者がエレナ様が人間の国に行ってしまうのではないかと噂しており、それを聞いてしまったようです」
「な、なにそれ……それってパパがノームにやきもち妬いているってこと?」
「まぁ、一言で申し上げるならば」
私は普段以上に荒れる空を見ながら溜息を吐いた。
魔王でも、やきもちは妬いちゃうのね……。
──もう、パパったら可愛いんだから!!
私はすぐに玉座の間に戻ると、パパに抱き付いた。
パパはそんな私を受け止めながら、不思議そうな声を出す。
「エレナ?」
「パパは馬鹿ね。私は人間の国に興味はあるけど、テネブリスを離れる気はないよ!」
「な、何のことだ」
「はいはい。パパといる時間、これからちゃんと確保するからいじけないでね」
「……なんのことだ」
一ミリも動かずに、同じことを繰り返すパパに私はにっこり微笑んで、固いその頬をつついた。
その日は勿論ずっとパパの傍にいた。
すると夕方には比較的穏やかな曇り模様に戻った。
ちなみに。
翌日、私はノームに「毎日テネブリスに来るの禁止令」を敷いたのだった。
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