ノームとお友達になりました
ノームと出会って、一週間が経った。
ノームはあれから人間の国に帰っていったけれど、次の日から毎日テネブリスに遊びに来るようになった。
もう二度と会えないと思っていたから驚いたけれど……でも、テネブリスを知りたいと思ってくれる人間がいることは私にとって本当に嬉しい事だ。
「エレナ!! 来たぞ!!」
「…………」
──そう思っている。うん、思ってるよ?
でも。
「ノーム! まだ準備してないのに部屋に入ってこないでよ!!」
ノームは最初出会った時は比較的大人しかったのに、王族故か少し遠慮知らずというかなんというか。
まぁ彼はまだ十二歳だっていうし、仕方ないだろうけれど……。
こう毎朝起こされちゃたまらない!!
「ははは。まだ眠っていたのか? 寝坊助だなエレナは」
「ちょっとこっち見ないで! 寝癖が……」
「何を言う。エレナはいつでも愛いぞ」
あとこんな風に恥ずかしい事をさらっと言う所も嫌だ。生前も今も恋愛経験皆無な私はどう反応していいのか分からない。
とりあえず「ありがとう」と返して、部屋を追い出した。
ちなみにノームが私の部屋に尋ねている事をパパは知っている。
アムも黙認してくれているが、アスは人間嫌悪が激しくてノームを見る度に襲い掛かってきそうになる。
城の部下の人達にも一応ノームの事は知らせているけれど……勿論皆いい気持ちではないだろう。
準備を整えて中庭に行くと、ノームがレガンの毛並みを整えていた。その隣にはレイもいる。
「ノーム、お待たせ」
「よい。さてエレナ。今日はどこに連れて行ってくれるのだ?」
「うーん、ゴブリンさんの村、竜人さんの森は行ったから……あ、そうだ。今日はセントウの研究所に連れて行ってあげる」
「セントウ?」
「うん! レイとレガンはお休みね。研究所は城のすぐ隣にあるから」
「きゅう」
ノームのグリフォンであるレガンが私に擦り寄ってくる。
レガンにも随分好かれたものだ。レイがその度にやきもちを焼くから大変だけれど。
「レガンが懐くのは余と母上とお前だけだな、エレナ。よし、さっそくその研究所とやらを見せるがいい!」
「はいはい。あ、ノーム。ちゃんとマント被って」
私は黒いマントをノームに渡す。
人間であるノームが突然現れると魔族の人達がびっくりするので一応のカモフラージュだ。
まぁ、近寄ったら匂いでばれてしまうんだけど。ないよりはましだろう。
私はマントを被ったノームを連れてエルフさん達の研究所に向かう。エルフさん達の研究所は魔王城のすぐ傍に生えてある千年樹の中だ。
パパが施した空間魔法で樹木の中とは思えないほど広い。
研究所の扉をノックすると、セントウ研究所の所長──カールさんが現れた。
カールさんは私を見るなり皺だらけの顔をにっこり綻ばせる。
「エレナ様、ようこそいらっしゃいました。本日はどういったご用件で?」
「お友達を連れてきたの。大人しくするから見学してもいい?」
マント姿のノームを見て眉を顰めたが、私達を研究所に招き入れてくれた。
さっそく研究所の中に広がる田んぼにノームは目を見開かせた。
田んぼには隙間が見つからないほどセントウが生えている。
「こ、これは……」
「これがセントウよ。お友達の妖精さんからいただいたの。それで一からこの国のエルフさん達が栽培方法を編み出したんだよ。パパの魔力を吸って成長するからこのテネブリスには適した作物。ちなみに今はセントウの遺伝子を使って他の野菜も栽培できないか研究してるところ」
「……こ、これを余に見せてよかったのか?」
「うん。私はノームを信頼しているもの」
私がにっこり笑うと、ノームも嬉しそうにした。
田んぼの中心にあるエルフさん達の休憩所の椅子にノームを座らせる。
そして私は一つのセントウを田んぼからちぎってとるとノームに渡した。
「はい。食べてみて」
ノームはセントウをまじまじと見つめ、匂いを嗅ぐ。
恐る恐る口に近づけ──齧った。
そして驚愕する。
「そのセントウは食べた人の好物や今食べたいものの味に変わるの」
「母上が作ってくれたスープの味がする……」
そう呟き、もう一口セントウを齧るノームを見守りながら私は頬杖をついた。
「ノームってお母さんが大好きなのね」
「! あぁ、少し恥ずかしいことだが。母上しか余の味方はいないと言ってもいい故にな」
「? どういう事?」
「余は第一王子だが……得意なのは土魔法という地味なものだ。対して弟のサラマンダーは炎という派手で人を魅了するもの。さらにサラマンダーは勉学も何もかもが天才の部類だ。余は幼い頃から努力で差を補うしかなかった。……故にどうやら父上は余ではなくサラマンダーに王位を継いでほしいと考えているようだ。余は父上と食事する事も許されていない。最近はまともに顔も見ていないしな」
「そ、そんな……親子なのに」
「王族の親子関係などそんなものだぞ。だがまぁ召使や国民達までもが余ではなくサラマンダーに期待しているのは少し堪えるな。サラマンダーにも疎まれている。今朝だって余の髪が地味だと嫌味をぶつけられたばかりだ」
そう苦笑するノームに、私は口を結ぶ。
まだ、この子は十二歳なんだよ? だというのに、なんでこんな……大人びた顔をさせるの。
思わず──私はノームを抱きしめる。
「え、エレナ!?」
ノームの慌てる声が耳元で聞こえた。
「私は素敵だと思う。ノームのその髪も、ノーム自身も。だから、そんな顔しないで」
「!」
「ノームがパパを一人で倒しに来たのは、そういう背景があったからなんだね」
「……あぁ。少しでも父上に、召使たちに、国民に……余を見てほしかった。それに、母上も病気でそう長くないらしい」
「!? そんな、」
「母上は最近死ぬように眠っている。呼吸をしているのか確認するのが日課になった」
ノームの声がだんだんと弱弱しいものになっていく。
私はどうしようもない気持ちを堪えて、ノームの頭を撫でた。
「エレナ……」
「っ、これは」
ああ駄目、涙出てきた。私が泣くことじゃないのに。本当に泣きたいのは、ノームのはずなのに。
私は慌てて涙を拭う。
するとノームが優しく微笑んだ。
「お前は本当に優しいんだな。まるで母上のようだ」
そんなノームの顔はやっぱり綺麗で。
……うん、やっぱりノームって将来絶対美形になる。十二歳でこの破壊力なんだもん。
っていうか、私、ノームの頭をこうして慣れ慣れしく撫でているけれど、かなり無礼なのでは!?
「わぁ! ご、ごめん! 頭撫でちゃって……」
「よい。お前に触れられるのは心地よいからな」
ああもう、何この子!
私はその後も天然タラシの素質があるこの十二歳の王子にドキドキしっぱなしだった。
前世も含めると私が年上なのに……なんだか悔しい!
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