彼の名はノーム
「貴方のお名前は?」
「…………」
誰もいない森の中。
レイの上に座る私は気に寄りかかっている彼に話しかけてみる。男の子は何も言わない。
私はため息を吐いた。
「別に貴方を食べようとしているわけじゃないんだから名前くらい教えてくれてもいいんじゃない?」
「……ノーム」
やっと口が開いた。
ノーム。彼の名はノームというらしい。
「ノームね。ノームはどうしてこのテネブリスに?」
「それよりお前の名前は?」
「あ、そうね。私はエレナ。このテネブリスの魔王の娘だよ」
「……。余は、魔王を殺す為に来た」
ノームの言葉に私は眉を顰める。
「どうして? パパが貴方に何かした?」
「何かしたって……お前が父と慕っているヤツは魔王だぞ? 殺されて当たり前の存在ではないか」
「そんなの、そっちが勝手に呼んでいるだけに過ぎない! 確かに、パパは今まで人間達に危害を加えたのは本当。でも、人間の方だって魔族の領土を奪ったり殺したり……お互いがお互いの事言えないと思う」
「? この土地は人間のものだろう?」
「だ、か、ら!! そういう考えが──!!」
するとそこで、レイが威嚇する声を上げた。
その先の草むらを見つめると──まだ若いグリフォンがひょっこり現れる。
「え? グリフォン?」
「レガン!! 無事だったんだな!」
どうやらノームの友達らしい。
「なるほど。貴方一人でどうやってこのテネブリスに来れたのか分かった。貴方はその子に乗ってきたのね」
「あぁ。こいつは余の唯一無二の友人だ」
すると友達が現れたことで少し強気になったノームが私の腕を掴む。
ノームの藍色の瞳に私は見惚れてしまった。
「共に来い、エレナ。お前の居場所はこのテネブリスではない。余と来るなら特別に余の召使として傍にいることを許すぞ。お前は魔王に洗脳されているに決まっているんだ!」
「だから!! 私は自分の意思だってば!!」
「まだ言うか! あんな醜い魔人を父などと──!」
私は反射的にノームの頬を打っていた。
もう我慢できなかったのだ。
「醜かったら、愛しちゃ駄目なの?」
「…………、」
「パパは母親に見捨てられ、死にかけていた私を助けてくれた。本当の娘じゃなくたって誰に何を言われたって私はパパを愛してる! パパだって私を心から愛してくれてる」
ノームの胸倉を掴み、私は訴えかける。
「知ってる? 魔王でも悪夢は見るんだよ!! どんな夢だと思う!? 貴方達人間に迫害されて殺されかける夢!! 本当に恐ろしいのは魔王じゃない。醜いから、自分達とは違うからって寄ってたかって迫害している貴方達人間も十分恐ろしいよ!!」
「……っ、な、何を言って……」
「魔族の人達だって必死に生きてるんだよ? テネブリスは今食糧難で……でも私が必死に頼んだら、パパは人間を襲うのをやめると約束してくれた」
「た、たしかに最近は魔族達からの被害が全くなくなったと父上が気味悪がっていたが……」
「でしょう!?」
私はノームから離れると踵を返し、レイの頭を撫でる。
レイは心配そうに私の頬を舐めた。
「それが分かったなら、もう行って。そのグリフォンがいるなら、帰れるでしょう」
「…………」
甘えてくるレイを受け止める。
しばらくして後ろを向くと、ノームはまだそこに突っ立っていた。
「な、何してるの? ジロジロ見ないでよ」
「……お、お前と」
「え? なに?」
「お前と、もう少し話していたいというのは、駄目か」
「…………」
「余はお前を怒らせるつもりはなかった。お前の……父を侮辱したのは謝ろう。悪かった」
意外。ちゃんと謝れるんだ。
私はそっとノームに歩み寄る。
「お、お前の事、もっと知りたいんだ」
「えっと。私も、ノームの事知りたいと思ってる」
「!」
「人間達の国の事、もっと教えてほしい! 魔族と人間達が争わない道を選びたいの! そのために貴方の知識が必要なの!」
私がそう言った途端、少しだけ肩を落とすノーム。
「そっちの意味か」と訳の分からない事を呟いている。
「ま、まぁいい。余も今のお前の話を聞いて、テネブリスについて色々聞きたい。魔族について少々誤った知識を学んでいたようだからな」
「あ、そういえば気になってたんだけど、ノームってもしかして貴族とか? なんだか歳が近い割には変な言葉遣いだし、召使とか、色々匂わせているけど」
「あぁ、まぁな。余はシュトラール王国の第一王子だ」
シュトラール王国……どこかで、聞いたような……?
「あ!!」
パパとドリアードさんが話していた王国だ!
パパを殺す為に兵を集めている国。
確かドリアードさんは四人の勇者を探しているとか言っていた。そしてその内の二人はその国の王子だと。
も、もももも、もしかして……。
「ねぇ、ノーム」
「なんだ」
「もしかして貴方、パパを殺す為の勇者だったりする?」
「あぁ」
ノームは重たそうな鎧を脱ぎ、そっと自分の鎖骨を見せてきた。
そこには星形の不思議な痣があった。
「生まれついての勇者の証だ。弟のサラマンダーにもある。余は土の勇者、弟は炎の勇者だ」
「っ、そんな……」
嘘でしょ。
誇らしげに痣を見せてくるノームに私は唖然とするしかなかった。
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