初めまして人間さん
クリスマスから二日経ったある日。
私はアムと魔法のお勉強をしていた。
「
「ふむ。やはり治癒魔法は平均。他は平凡以下ってところですね」
アムドゥキアスが私の成長記録帳にメモをしているのを見て、私は顎をテーブルの上に乗せる。
「あーあ。私やっぱ魔法の才能ないのかなぁ。パパの血、ちょっとは含んでるはずなんだけどなぁ」
「逆に魔王様の血があるからこそ、ここまで魔法が使えるのかもしれませんね。人間の多くは魔法の“ま”すら使えないようですし」
「そんなものかなぁ」
「そんなものです。ですがエレナ様には魔法よりも凄い長所が多々あると私は思っておりますよ」
「…………」
なんか、セントウを持ち帰ってからからアムがみょ~に私に優しい気がする。
目が私を見守るお母さんみたいな……いや、気のせいかな。
まぁ、厳しいよりはいいけどさ。
しかしここで目玉お化けが私の部屋に突然現れた。
「──エレナ様!! アムドゥキアス様!! お耳に入れたいことが!!」
──目玉お化けの報告に私はアムと部屋を飛び出した。
***
竜の姿のアムに乗って、ゴブリンさんの村に行く。
宙から見ると、ゴブリンさん達の大きな輪が見えた。
その中心にいるのはアスと村の視察をしていたパパ。
そして──
「貴様!! どうやってこのテネブリスに足を踏み入れた!!!」
「誰がお前みたいな魔族に言うか!! 」
アスは人間の男の子に我を忘れて唾を散らしている。
大変、あの様子じゃ今にもあの子、殺されそう!!
「アスモデウス、落ち着け」
「落ち着けません魔王様!!! こんな!! アタシとアムを玩具にした人間なんかが!! このテネブリスに侵入してきた!!!」
「──アス!!」
アムがすぐにアスを人間の男の子から引き離した。アスは半分竜の姿に戻りかけている。
私はパパの足を掴んで、まじまじと男の子を見つめる。
男の子は多分、今の私と同じくらいの年齢。焦げ茶色のツンツン頭で、年齢に似合わない鎧を身につけていた。そしてこれまた似合わない大剣を抱え、パパを睨みつけている。
「パパ、あの子は、」
「エレナ、来たのか」
男の子は私を視界に入れるなり、それはそれは大きく目を見開かせた。
「人間の女子!? 魔王!! 貴様、誘拐まで!!!」
「この子は私の娘だ。少年よ」
「む、娘だと!?」
男の子が「本当か」と言いたげに私を見る。
私は胸を張って頷いた。
「私は正真正銘パパの娘だよ!!」
「ま、魔法で洗脳されているのか……」
その言葉に私はムッとする。
しかも男の子は私に憐れみの瞳まで向けてくるものだから、余計に腹が立った。
我慢できずに男の子の方にズンズン早歩きをする。
「私は自分の意思でここにいるの!! 洗脳だなんて失礼ね! パパの事なーんにも知らないくせに!!」
「!!? ……か、かお、ちか……っ」
「なんて!? ちゃんと人の顔見て堂々と話しなさいよ!!」
「…………っ」
私の顔を見て唖然とする男の子に私は我に返った。
はっ! 駄目だ駄目だ。相手は小さい男の子、相手は小さい男の子……。
身体は十歳とはいえ、少々大人げなかった。
「お、おい、人間だべ? 殺すべか?」
「馬鹿! 魔王様から駄目だと言われているべ!」
「だ、だけどよ、人間達だって俺達をどれだけ殺したんだべ……?」
そんなゴブリン達の戸惑いの声に私は思わずその子の手を握った。男の子の顔が一気に真っ赤になる。
そのまま振り向けば、アスモデウスがまるでゴミを見るような冷たい視線を男の子に送っていた。
アムもアスよりは落ち着いているものの、苦々しく眉を顰めている。
パパは動じていなかった。
「パパ」
「なんだ」
「……この子には手を出さないでほしい。この子が無傷で人間の国に帰ることは私達のこれからに大切な事だと思うの。この子はレイと私で出来る限りの所まで送り届ける」
「…………」
「ま、魔王様……っ!!」
パパは「好きにしなさい」と言って、アムとアスを連れて城に戻っていった。
ゴブリン達はそんなパパにさらにざわざわと話し始める。
ちょっとまずいかも。一刻も早くここから去ろう。
するとそこで、レイの鳴き声が響く。
先ほど城を出る前、マモンさんに昼寝をしているレイを起こす様に頼んでおいたのだ。
──もしもパパがこの子を捕らえるというのなら、私はこの子を攫ってでも逃げ出すつもりだった。
男の子は私の傍に降りてきたレイに腰を抜かしている。
「ど、どどどドラゴン!!?」
「あら、貴方はドラゴンのお友達もいないの?」
私はちょっと仕返しにそう男の子をせせら笑った。
そして男の子に「乗って」と言う。
「貴方を無事に送り届けることがこのテネブリスの為なの。危害は加えない。それに少しお話しない?」
「…………っ、」
「へ、ん、じ、は??」
レイが思わず震えてしまうような威嚇をすると、男の子はこくこくと大袈裟に頷いた。
私は口角を上げる。
「じゃ、行こう!」
私が男の子にもう一度手を差し出す。
男の子は私を見て、手を迷わせたが──恐る恐る、私の手を握った。
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