パパとクリスマス③


 クリスマスは真夜中まであったが、十二時になると私はパパに「寝なさい」とベッドに戻された。

 もう少し皆と一緒に居たかったのになぁ。

 あんなに上機嫌なアム、初めて見た。お酒に弱いこと、明日揶揄ってあげないと。

 アドっさんにはお疲れさまって労わって。

 アスにはクリスマスもなかなかよかったでしょってにんまり尋ねて──。

 あぁ、私に中身があったとしたら今はいっぱいに詰まっているんだろうなぁ。

 幸せだなぁ。

 クリスマスの興奮が冷めないまま、私はパパの天井をずっと見つめていた。

 

 ── 一時間ほど経った頃だろうか。

 

「──エレナ?」


 パパがノックをして私の部屋に入ってきた。

 私はなんとなく寝たふりをする。

 ──どうしてパパがここに?


「先ほどから動いておられないので、おそらく寝ています」

「そうか」


 私の部屋の扉お化けとパパの会話を聞くと、パパが扉を閉める。

 そしてこつ、こつ、とゆっくりパパが近づいてくる足音に気づいた。


「エレナ」

「…………」

「……昨日は、お前の想像通りのクリスマスだっただろうか」


 想像以上だよ、と心の中で答える。


「すまないな。サンタというものはクリスマスの前夜に来るものなのだろう。だが、色々手間取ってしまった」


 ──え?

 ──まさか、まさかだけど……?

 

 パパが私の頭を撫で、枕元──私の後頭部のすぐ横に何かを置いた。

 ──嘘……。

 私は唇を必死に噛みしめる。


「──愛している」


 パパの言葉は私の涙腺を直接刺激してきた。


「この世界の誰よりも、愛している、エレナ。我が最愛の娘よ」

「…………っ、」

「私に、こんなにも尊い気持ちを教えてくれて有難う」


 パパの手がするりと私の頬に滑る。

 

「どうか、これからも私のエレナでいてくれ。それまで私はお前の傍で、お前を守ろう」


 パパはそう言うと、またゆっくり部屋を出ていった。

 私は扉が閉まる音と同時に枕を濡らす。


「……そういうこと、ちゃんと起きている時に言ってよね……」


 あぁ、愛されてるなぁ。

 物心ついた時から両親がいなくても。

 猫を庇って死んでも。

 転生先でも実のお母さんに見捨てられそうになっても。

 

 ──今、私は、世界で一番幸せだ。


 後頭部に当たる感触が愛しくて、でも勿体なくて触れられない。

 そうしている内に自然と私は眠った。


 ──翌日。


「パパ、見て、見て!!!」


 私は城中を走り回り、皆に自慢した。

 私のサンタさんから貰ったプレゼントを!!!

 玉座の間に飛び込んで、私は首に嵌めているネックレスを掲げた。

 そのネックレスの真ん中には──とっても綺麗な輝く朱を持つ宝石があった。


「サンタさんから……サンタさんから、プレゼントもらったよ!!!!」


 パパはそんな私に肩を小刻みに揺らす。


「そうか。サンタサンというレッドキャップには今度私から礼を言っておこう」


 パパ、私がサンタさんの正体は親だって知ってるくせにしらを切っちゃって!

 でもパパのその言葉に私は心から微笑んだ。


「──うん。お願いね!」


 ──この時の私は知らなかった。

 ──私へのクリスマスプレゼントはパパからのものだけじゃないことを。

 ──神様からもう一つ、私の未来を大きく変える事になるプレゼントが贈られていたことを。




 ──私と、彼との出会いまで、あと一日。

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