パパとクリスマス②

 ──クリスマス当日、禁断の森。


 パパがクリスマス宣言をしてから七日。

 私は城中の魔族さん達に声を掛け、クリスマスへの準備に時間を費やした。

 今ではそんな城の噂を聞いて、ゴブリンさんの村や竜人さんの森──テネブリス中が虹蛇やドラゴンの鱗の飾りであちこちキラキラ輝いている。

 前世の世界のイルミネーションよりもずっと綺麗なテネブリスの様子がとても嬉しい。

 そしてもうすぐ城でのパーティが始まるというのに、何故私がここにいるかというと──。


「エレナ!」

「ドリアードさん! メリークリスマス!!」


 私はドリアードさんにハグをすると、大事に抱えていたクリスマスプレゼントを渡した。


「はい、ドリアードさん! これ、アドっさんと私で作った人参ケーキだよ! セントウの研究が進んだおかげで野菜も品種改良してなんとかちょっとずつ栽培できるようになったんだぁ」

「ほぅ! それはいいことじゃ。ジャック・フロストから色々話は聞いておるぞ。よく頑張ったの。偉いぞエレナ」


 優しく私の頭を撫でるドリアードさんに私は思わずにやけてしまう。

 そこで視線を感じてそちらを見ると木の陰からそちらを覗くニクシーさんがいた。


「ニクシーさん、メリークリスマス!」

「……るい」

「え?」

「ず、ずずずずるいぞドリアード!! 其方ばかりエレナにプレゼントをもらってハグまでしてもらってー!!!!」

「ふふん! 我はエレナの初めての友達だからな! 仕方ない事よ」


 えっへんと胸を張るドリアードさんと悔しがるニクシーさん。

 私はちょっと照れくささを感じながらも、ニクシーさんにもハグをする。


「勿論ニクシーさんにもプレゼントあるんだからそんな悲しそうにしないでよ」

「なっ!!? ななななななななななな!!?」

「ニクシーさん!?」


 ニクシーさんが凄い勢いで木の影に戻っていく。

 何か気に障ってしまったのだろうか。


「え、ええええエレナ!! 其方!! ハグをするにも、そ、そそその、タイミングというやつがあるだろう!! そんな急にハグするやつがあるか!!」

「え、えー……」


 どうやらニクシーさんは結構な恥ずかしがり屋さんらしい。

 私はとりあえず用意していた人参ケーキを渡す。


「はい、こっちはニクシーさんのケーキだよ」

「け、けけけケーキ!!? だ、駄目だ、受け取れぬ!!」

「どうして!?」

「これ以上の幸せは妾の許容範囲を超えてしまう!!!」


 随分と可愛らしい事を言いだすニクシーさん。

 するとドリアードさんが腰に手を当て、呆れた様子だ。


「相変わらず面倒臭い奴じゃのう。エレナ、こやつの事は気にするでない。パーティがあるのだろう? 城に戻るがいい。我達はこの森からは出てはいけないのでな。アドラメルクによろしく言っておいてくれ」

「うん。ありがとう。あ、そうだ。あのね、クリスマスって家族との時間を楽しむ日でもあるんだよ」

「ふむ?」

「ドリアードさんとニクシーさんは姉妹みたいなものなんだから、仲良く一緒にケーキ食べないとだめだからね!」


 二人が全く同じタイミングで顔を見合わせた。この二人は素直になれないだけで、本当は凄く仲良しなのだ。

 二人が喧嘩する声を聞きながら私はレイに跨る。

 テネブリスの住民達はいいクリスマスを送れているだろうか。

 

「なんだかクリスマスの日に空を飛ぶと、サンタさんになった気分だねレイ」

「ぎゃう?」


 魔王城へ降りると大広間は既に盛り上がっていた。

 ドリアードさんがくれた大きなクリスマスツリーを中心に皆、楽しそうだ。

 ゴブリンさん達の顔が赤く、歌ったり踊ったり騒がしい。どうやらセントウで作ったお酒で酔っ払っているようだ。

 パパは大広間の正面にある玉座で静かにその様子を眺めていた。

 私はセントウを二つエルフさんにもらって、パパの所へ向かう。


「パパ! 膝乗せて!」

「あぁ、おかえりエレナ」


 パパは私を優しく抱き上げた。

 私はパパにセントウを渡す。


「一緒に食べよう!」

「ふむ」


 パパがセントウを齧る音を聞きながら、私もそれを齧った。

 大広間は、皆笑顔だった。

 アムは珍しく顔を真っ赤にしてドワーフ達とお腹を抱えて笑っている。

 アスはエルフの女の人に囲まれて満足そう。

 リリスさんは数人の雄の獣人さんを連れて大広間から出ていっ──これは見なかったことにしよう。

 アドっさんは皆からの注文を聞いて次々と新しいご馳走を作っている。

 ──こんな光景が、いつまでも続けばいい。


「パパ、クリスマスも悪くないでしょ?」

「あぁ……」


 パパはどこか心ここにあらずといった感じで答えた。


「パパ?」


 ポタリ。

 私の頬に何かが落ちてきた。

 これは──。

 

「独りだった頃の私の乏しい想像力では、こんな光景は欠片も思いつかなかっただろう」


 少し掠れたパパの声に私は頬を緩める。

 その言葉だけで、クリスマスをパパに教えた甲斐があったよ、パパ。

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