パパとクリスマス
「もうすっかり冬だね……」
「そうだな。寒くないか? エレナ」
「平気」
雪降るテネブリスをパパと眺めながら、私は頬杖をついた。
「クリスマスのない冬にも慣れてきたなぁ」
まぁ、前世でもサンタさんからプレゼントなんてもらったことが無いけど。
叔父さんは現金を私に渡して「好きなのを買え」だったし。
いや、凄く嬉しかったんだけどね。ちょっと憧れてたっていうか。
……一回でいいから、朝起きたらプレゼントがあったあの幸せを味わってみたかったなぁ。
「クリスマス? なんだそれは」
「えっとね、クリスマスっていうのは……なんていうんだろう。夜はご馳走を食べて大切な人と過ごす日っていうか……前夜の事をクリスマスイヴって言って、その時にはサンタさんが現れるんだよ」
「サンタサン……」
「サンタさんっていうのは子供にプレゼントを配る赤い服を着たおじさんで、夜中に寝ている子供の枕元にプレゼントを置いていくの。だからクリスマスは人間の子供達にとって、凄く楽しみな日でもあるんだぁ」
「……エレナもか」
「えっ」
「エレナもまだ十歳だろう。クリスマスが楽しみなのか?」
「え、あ、うん。あったら、楽しいだろうなぁとは思うよ。夜は大広間で城の皆でパーティーをしたり……ふふ、賑やかだろうなぁ」
「……そうか」
パパはふむ、と顎に手を当てると突然玉座の間へ向かった。
私は慌ててパパを追いかける。
そしてパパは玉座の間でリリスさんと喋っていたアムドゥキアスを呼んだ。
「ま、魔王様!? いかがされましたか」
「テネブリスにクリスマスを作る」
「く、クリスマス????」
パパの急な提案にキョトンとするアムドゥキアス。
するとリリスさんが黄色い声を上げる。
「あらぁ! いいじゃないクリスマス!! 人間のイベントでしょう!? 人間達が最も熱くとろける時間って聞いたわ!!」
「ち、違う違う!!」
私はアムとリリスさんに本来のクリスマスを説明する。
そうこうしているうちになんだなんだと騒ぎを聞きつけたゴブリンさん達やアスまで玉座の間に集まってきた。
「クリスマスぅ!? やだ、そんなの必要ないわよ」
「でもご馳走パーティは料理人として腕が鳴るねぇ。いいんじゃねぇか! たまには派手に騒ぐ日があっても!」
「冬にしか生きられない僕ちんとしては嬉しい提案だよ~」
そう言って窓から現れたのは雪だるまの姿をした雪の精、ジャック・フロストさんだ。
私はどんどん大事になっていく状況に少しだけワクワクしてきた。
「クリスマスは準備期間も必要だろう。今日から七日後をテネブリスのクリスマスとする!」
パパの堂々とした声に部下の魔族の人達は動揺していたけれど返事をする。
う、嘘でしょ……本当に、クリスマスを?
するとパパが私を抱き上げ、自分の膝に置いた。
「それと、アムドゥキアス。お前には最も重要な事を頼みたい」
「は……はっ! 何なりと!」
「サンタサンという名のレッドキャップを見つけ次第、捕獲せよ」
「い、いやいやいやいや! パパ何言ってるの!?」
「む。今までエレナにプレゼントを持って来ることがなかったサンタサンの断罪の為だが」
私は真面目に首を傾げるパパに思わず噴き出してしまう。
「ち、違うよパパ! ふふ、サンタさんは伝説だよ。本当はサンタさんはいなくてプレゼントを置いていくのはその子の親なの。子供達はサンタさんが置いていったって思ってるんだけどね」
「……そうか」
パパはまた考え込んだように動かなくなる。
「え、エレナ様。クリスマスの準備ですが、具体的に何をすれば?」
「えっと、そうだね。まずは城の飾りつけかなぁ。クリスマスツリーとかあればいいんだけど」
「はぁ。クリスマスツリーですか」
なかなかイメージが湧かない様子のアムドゥキアスに私は苦笑する。
0から説明するのって案外難しいな。
こうなった以上、責任持って皆にとって素敵なクリスマスを成功させる為に頑張ろう。
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