エレナ、家出します。



「レイ~気持ちいいね!」

「ぎゃーう!」


 レイの背中に乗って、テネブリスの上空を駆ける。

 パパがテネブリスを出なければ、こうしてレイと空を飛んでもいいと言ってくれたのだ。

 三時間たっぷり空で遊んだレイと私は上機嫌で魔王城の中庭へ降り立った。

 特製のブラシでレイの身体を撫でてあげていると、何やら渡り廊下の方が騒がしい。

 見るとゴブリン達がお肉やら稲やら食料を大量に城に運んでいた。


「こんにちはゴブリンさん! その食料達は? 今年は収穫が良好なのね~」


 するとゴブリン達がそれぞれの顔を見合わせる。


「何言ってんべさ姫様。これらは人間の野郎どもから奪い取ったヤツですぜ?」

「え!? そ、そうなの!?」

「そりゃあ、テネブリスは魔王様の魔力が強すぎてろくな作物は育たねぇ。動物も寄り付かねぇ。人間から奪うしか俺たちゃ、やっていけませんぜ! あ、姫さん!?」


 私は走った。

 すぐにアムを見つけ、アムの足にしがみ付いた。


「アム! アム!」

「ど、どどどうしたのですかエレナ様!? 危ないですよ」

「アム!!! 人間達から食料を奪ってるって本当!!?」

「えぇ!? どうしてそのことを!!」


 ゴブリンから聞いたことを話すと、アムは溜息をついた。


「あの、馬鹿どもは……あれだけエレナ様には言うなと言ったのに……」

「アム!! 答えて!! この事はパパは知っているの!!?」

「お、落ち着いてくださいエレナ様!」

「私がどうかしたのか」

「──パパ!」


 いつものようにパパがにゅっと現れる。

 私はパパに駆け寄ると、パパが私を抱き上げた。


「パパ、人間を襲ってるって本当!!?」

「……テネブリスの為だ」


 パパは否定しなかった。

 私は雷に打たれたようなショックを受ける。


「人間達に土地を奪われ、作物を育てる土地が十分にない。私の魔力も強すぎる。分かってくれ」

「でも、そんな事してたら!! 将来人間の人達と交流できなくなってしまう!」

「お言葉ですがエレナ様。人間達に話し合いなど通用しません。やつらは自分達の事しか考えられない種族ですから」


 アムの言葉に私は唇を噛みしめた。


「……奪われたからって、奪っていい理由にはならない」


 それだけ言い残し、私はパパの手から離れた。


「もういい!! パパの馬鹿!!」


 中庭に飛び出し、レイの背中に飛び乗る。

 アムが慌てて追いかけてきた。


「どこに行かれるのですか!」

「家出してやるぅっ!!!」


 そんな私にアムは顔を真っ青にしている。

 もうテネブリスなんか知るもんか!

 私は魔王城を離れた。家出の先なんて、たかが知れてる。


 ──禁断の森だ。


 私は泣きながら、私に気づいて嬉しそうに手を広げるドリアードさんの枕みたいな胸に飛び込んだのだった。

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