パパと絵


「ねぇ、パパ。レイと遊びに行っていい?」

「駄目だ」

「ぎゃう」


 禁断の森に遊びに行ってから、パパはさらに過保護になってしまった。

 しかも勝手に森に行った罰に今日一日は外出禁止なんだと。

 本当は一週間禁止だったんだけど、「パパダイキライ」っていう魔法の言葉で今日だけになった。

 部屋から出られない分、今日一日パパが一緒にいてくれるんだって。

 私はレイが入っても窮屈にならない程広いパパの部屋で小説を書いていた。

 レイが遊んでほしいのか私の頬を舐めてくる。


「ぎゃう、ぎゃーう」

「駄目だよレイ。邪魔しないで」

「きゅう」

「エレナ、何を書いているのだ」

「物語だよ。暇なんだもん」

「なんの物語だ」


 パパは私の頭上から覗きこんできた。

 そして動かなくなる。


「パパが主人公の物語だよ」

「────、」

「パパがどれだけ可愛くて、強くてカッコいいか伝えるにはただの言葉よりもこういう物語がいいかなって!」

「なんだか……くすぐったいな……」

「ふふ。絵も付けてみたんだ。これパパに凄く似てると思うんだけど」

「お、おぉ……エレナは絵が上手いな。天才か?」


 パパは相当嬉しかったのか、私の頭上でオロオロそわそわしている。

 するとパパが私の隣の席に座った。


「パパ?」

「物語は無理だが──私もエレナの絵を描こう」

「嘘!!? パパが!!?」


 私は嬉しくなって椅子の上でぴょんぴょん跳ねる。

 そしてパパの絵が完成するのをじっと見つめた。


 ── 一時間後。


「出来たぞ」


 私はいつの間にかレイの腕の中で眠っていたらしい。

 パパの声にすぐに起き上がり、パパから絵を受け取った。

 

「……こ、これは……!!!」


 私は息を呑む。

 嬉しさのあまり、部屋を飛び出して、たまたま見つけたアスモデウスに声を掛けた。


「アス、アス見て!! この絵!!」

「あん? 何よガキンチョプリンセス。……うわ、何その絵」

「あのねあのね、これはね──」

「腐ったマンドラゴラの絵かしら……なんか不気味ねー。今にも呪われそうなんだけど」

「ちょ!」


 私は慌ててアスの口を塞ごうとしたが、遅かった。

 私の後ろに気配を感じたのだ。


「…………」

「あら、魔王様。どうしたの? そんな怖い顔して」

「…………やはり私は、私なんかではエレナの可愛らしさを表せないのか」


 パパはそう言うなり、自分の部屋に閉じこもってしまった。

 私はアスに事情を話すと、アスは顔を真っ青にして気絶した。


 ──結局、その一時間後、なんとかパパを慰める事に成功した私は自分のベッドの真上の天井にパパの絵を貼った。

 パパの絵を見るという毎朝の楽しみが出来るからだ。

 パパにそれを話すと、パパは「そうか」と相変わらず無表情だったけど──私には照れくさそうに笑っているように思えた。


 ちなみにアスはその後一週間はまともにパパと顔を合わせられなかったとか。

 もうパパも気にしてないのに、変なの!

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