パパと悪夢


 ──寄らないで、気持ち悪い!

 ──魔族め! 今日こそぶっころしてやる!!

 ──なんて醜い魔人なの!!!


「────、」


 目が覚めた。

 自然と涙が零れる。

 夢を見たのだ。

 四方八方人間に囲まれて、殺されかける夢を。

 数の暴力で殴られ、石を投げられ──。

 たまに、こういう夢を見る事がある。

 でも今日のは一段とリアルだった。

 ……眠れない。

 

 私はズルズルと毛布を引きずり、子供部屋には広すぎる部屋を出た。

 隣はパパの部屋だった。

 パパの部屋の扉はぎょろぎょろした目玉がいっぱいあって、少し怖い。

 これはパパの魔力で作られた城の番人の目玉お化けだ。

 目玉お化け達は私を見るなり、すぐに扉を開けてくれる。


「…………、」


 私の足音がやけに大きく響く。

 パパの部屋は冷たくて、寂しい。


 ぺた……ぺた……。


 ゆっくりパパに近寄っていく。

 パパは死んでいるようだった。呼吸もいらないから、動かない。

 私はパパのベッドに上がろうとしたが、大きすぎて無理だった。

 仕方なく、ベッドに背中を預けて体操座りをする。


 ──この世界に転生してから、彼は私を愛してくれる。

 ──本当の父親なんて物心ついた時からいなかった私にとって、彼はまさに父親も同然だ。


 でも、そんな彼はどうやら人間を嫌っているみたいだった。

 それは、たまに見るあの悪夢と、関係あるのだろうか。


「ぅ……」

「! パパ?」

「やめろ……やめてくれ……死にたくない……私は、私は、ただ──」


 その時、一際大きな雷が鳴って、パパの言葉は掻き消されてしまう。

 

「──パパ、」


 私が泣きそうな声でパパをもう一度呼ぶと、パパの大きな身体が起き上がった。


「……、エレナか」

「パパ……」


 パパは私を抱き上げ、ベッドに乗せた。


「どうした」

「怖い夢見た。たくさんの人間達から、罵られて、恐がられて、殺されかける夢」

「───、」

「パパ、パパも、あんな風に、人間に酷いことをされたの?」

「……そうか、お前は私の魔力で出来ているから、私と同じ夢を──」

「パパ?」

「いや、なんでもない」


 パパは何かを考えるように、俯く。

 私はそんなパパの胸に頬をくっつけた。


「一緒に寝ようパパ。そしたら、悪夢は見なくなるんだよ」

「そうなのか」

「うん」

「だが、お前を踏みつぶしてしまわないか、恐いな」

「ふふ、魔王にも怖いものがあるんだね」

「あぁ。私はいつも怖いよ。お前に出会った日から」


 ──お前を失ってしまうのが。


 私はパパの胸を軽く叩いた。


「そんなこと、絶対ない。私はパパから離れないって言ったでしょ。ほら、さっさと寝よう」

「うむ……」


 寄り添って横になったパパは冷たかった。

 でもいいんだ。私が暖めてあげるから。

 私は驚くほどすぐに眠った。


 多分もう、私もパパも悪夢は見ない。

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