パパとご飯
パパは食事はしない。
何も食べなくても生きていける身体らしい。
でも、パパにも“満腹”という素晴らしさを味わってほしい。
「というわけで! エレナと」
「アドラメルクの~」
「お料理教室~!!!!」
アドっさんとピッタリのタイミングで声を合わせる。
目の前に立っているアムドゥキアスとアスモデウスは「うわぁメンドクサイ」と顔で語っていた。
「ちょっとアム! アス! 拍手ぐらいしなさいよ!」
「いやしかし……どういった反応をすればよいのか」
「食事ってなによ。アタシ達竜人は別に食事なんて必要ないわよ。水さえあればね」
ここで混乱された方もいるだろうから、この場にいる私のお友達を紹介しよう。
まず、アムドゥキアス。パパの次に偉い人。いつも敬語でお堅い。
でもその紫色の長い髪の毛や整った顔があまりにも綺麗だから魔族の女性達に大人気らしい。
次にその隣にいるのがアスモデウス。アムドゥキアスの双子の弟。通称アス。
男の人なのに女口調。ガキは嫌いだっていうけど、なんだかんだいって面倒見はいい。
容姿はこれまた美形。でもアムみたいに髪は長くなくて、肩くらいかな。色は一緒だけど。耳にはピアスがいっぱいついている。
ちなみに二人とも種族は竜人。超カッコいい竜に変身できるんだって!
最後に私の隣にいるのがアドラメルク。通称アドっさん。
アドッさんはドワーフでこの城のコック長。
パパやアム達は食事はいらないものの、手下のドワーフさんやオークさん達は勿論必要なのだ。
アドっさんは気さくなおじさんで、とっても料理が上手い。
でもこのテネブリスにはいい食材が収穫できないから、いつも苦労してるんだとか。
「じゃあお料理教室始めるよー!! 審査員はアムとアスね!」
「アタシは女の子達とお約束があるからお暇するわよプリンセス。最近
「おい、アス。そういう事をエレナ様の前で……」
「えーアス、いなくなっちゃうの? 私、泣いていい?」
「う」
アスの顔が真っ青になる。
アスは私が泣いたら真っ先にパパがやってくるのを一番知っているからだ。
「ちっ! これだからガキは嫌いよ!」
「へへ、ありがとうアス」
「よしっ! んじゃとりあえず、死んだマンドラゴラを切ってくべ!」
「はーい!」
元気よく私は手を上げた。
よし、格別に美味しいご飯を作って、パパに「美味しい」って言わせるんだ!!
──しかし、私は忘れていたのだ。
──生前、私は料理で友達を気絶させたことがあるくらい──料理が下手だって!
「…………おぇ」
「おろろろろろろろろろrrrr……」
一時間後。
私とアドっさんの前には顔を真っ青にして嘔吐するアムドゥキアスとアスモデウスがいた。
アドっさんは不思議そうに首を傾げる。
「いや、俺のレシピ通りに作ったはずなんだが……おかしいな。姫、何かしたのか?」
「え? いや、私は特に何も……あ、」
「?」
「アドっさんがトイレに行っている間に隠し味としてこのりんごを少し入れちゃった」
「あ!? それはりんごなんかじゃねぇ!! デビルトマトだぞ!? 猛毒だ!」
「え!?」
私は慌ててアスとアムを見る。二人はもう死にそうだ。
「やだ! 二人とも、死なないで!!!!」
「いや、大丈夫だ。竜人は殺したくても死なねぇからな。でも姫、俺の許可なしに食材を入れんじゃねぇぞ!」
「は、はい……」
私はぐつぐつと沸騰する泥みたいなスープを見つめる。
確かに、全然美味しくなさそう。
こんなの、パパに食べさせられない……。
「頑張ったのになぁ」
「──何をだ」
私は身体をビクリと揺らす。
振り向くと、パパがいた。
アスとアムが光の速さで立ち上がる。
「ま、魔王様!! お目覚めでしたか!」
「あぁ。いい悪夢だった。……このスープはなんだ」
「あ、こ、これはただの泥よ、パパ」
私がそう言うと、パパの視線はアドっさんに向けられた。
「……エレナ様が、魔王様にお作りになったレッドキャップスープでございますぜ」
「そうか」
パパは私の頭に優しく撫でると、食卓に座った。
「戴こう」
「え、でもパパ!! このスープは猛毒で!!」
「構わん。私は毒には負けん」
「でも!!」
「何度言わせる」
「っ」
「……魔王は、娘の手料理を食べてはいけないのか?」
パパはそう言った。
アドっさんが慌ててスープを注いでパパの前に置いた。
私とアム、アス、そしてアドっさんはハラハラしながらパパを見つめる。
そして──ついに、私のスープがパパの口に。
ズズズズ……。
なんとも不気味な音が食卓に響く。
多分これ、パパがスープを啜っている音だ。
パパは一気にスープを飲み干すと、沈黙した。
「ぱ、パパ? 大丈夫?」
「…………」
「ま、魔王様!? どこか不具合でも、」
「……いや、すまない。噛みしめていた」
「え?」
パパが私に手招きをするので、恐る恐る近寄った。
「これが、美味しいというのだな」
「パパ?」
「ここがなんだか温かいぞ」
パパは自分の胸を指した。
私は嬉しくなって、にっこりする。
「うん! 隠し味に“愛情”を込めたの!! だから、それは私のパパへの愛!!」
「そうか。愛情というものは、料理に入れる事が出来るのか」
パパは空になった器に顔を向けた。
「……アドラメルク。もう一杯注げ」
「は、はい!」
アドっさんがパパの言われた通りにする。
「エレナ。お前の愛というやつは、格別だな。有難う」
「────、」
私はズズズズ、とスープを啜るパパが愛しくて、間近でいつまでも眺めておくことにした。
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